住み継がれる集落をつくる
交流・移住・通いで生き抜く地域

はじめに

 都市・農村にかかわらず、これまで団塊の世代前後の世代が地域社会、地域空間の維持管理の中心であった。しかし、時代の経過とともに高齢化が進み、担い手が減少しつつある。私たちはこれらの世代が守ってきた地域をどのように次世代に継承していけるのだろうか。長期にわたり過疎・少子高齢化に取り組んできた課題先進地である農山漁村に目を向けると、田園回帰と言われるように、現役世代の移住・交流が頻繁に行われている。本書は、このような現代社会のモビリティの高まりにもとづいた、都市と農村との往来が頻繁になった今日の暮らし方から、持続的な地域社会をつくるための解決策を探っている。
 一部には、地域に余力があるうちに計画的に撤退すべきだ、という論調もある。一般的な縮退傾向の中で想像以上に早く継続可能性について諦めてしまっている地域も多いのではないだろうか。私たちは余力のある地域こそ、今のうちにその持続性を高めうる手を打つべきであるというスタンスである。本書では、そのための方策を探っている。しかし、それが、すべての地域に一律に適応できる方法であるとは思っていない。ただ、計画的に縮退を実現していこうとすることには、違和感を覚えている。
 本書は、このような問いを共有する実践者・研究者で構成する、日本建築学会農村計画委員会の集落居住小委員会のメンバーが中心となり編集刊行するものである。自ずと地域に住まうことを核としつつ、仕事やコミュニティなどの議論を展開していることに特徴がある。
 2012年度の小委員会設立以降、8回の公開研究会や日本建築学会大会での研究協議会を通じて、全国各地の地元の仕掛け人や移住者、アーティスト、地域おこし協力隊員など、数多くの地域づくりの実践者とともに現地で議論を重ねてきた(図1)。現地の人々の声に耳を傾け、実践者・研究者として得られた知見を紹介し、相互のやりとりの中で描き出されてきた知見をまとめている。

 本書では「住み継がれる」という言葉に、「住む」と「継がれる」という二つの課題を掛け合わせて解いていくべきという想いを託している。
 「住む」という言葉は、一般的には「定住」するということが前提になる。つまり一定の場所に居所を定め、住まい続けることと言い換えられる。しかし昨今は、二地域居住や週末居住、多拠点居住という言葉を耳にするようになった。今日的な暮らし方として、一定の場所に「定住」することが、すなわち「住む」という行為では必ずしもなくなりつつある。これを私たちは「流動的居住」とか「動居」と呼んでいる。人々の「住む」という行為を、もっと拡張して捉えることの中から、地域の持続性を高める可能性の見い出せるのではないか。
 「住む」という行為を拡張して捉えると、コミュニティとの関係や農地・山林といった地域資本を誰がどのように継承していくのか、という問いも生まれてくる。「継ぐ」という能動的な表現であると、自ずと住み継ぐ主体である人間に焦点があたる。移住ブームにもそのような傾向があるように思う。もちろん、それはそれで大切な視点ではある。敢えて「継がれる」という受動的な表現を打ち出していくことで、住み継がれる対象である「地域」に重きを置こうとしている。ここには、地方移住・田園回帰の一歩先を見据えて、地域が如何に継がれていき、その継続性が確保されていくのか、その方策とはどのようなものなのか、といった問いを解いていこうとする意思を込めている。

 本書は、起承転結の4部構成となっている。
 「起」にあたる1章では、本書で取り上げる問いや、それを解決するための仮説について論じている。「承」にあたる2章では、近年の地方移住の動向について、田舎暮らしへの志向の変化、地方創生にともなう施策の動向、3.11の影響などについて論じている。
 本書のメインは、「転」に位置づけられる3?6章の各事例である。3章「空き家を地域で活かす」では、建物のリノベーションに留まるのではなく、空き家活用を通じて移住・交流を促し、地域の質的転換、持続性の確保を試みている事例から、地域の関与について考えたい。4章「地域外との繋がりで保つ」では、過疎や震災、豪雪といった厳しい状況に対応して、往来や交流を通して地域内外との社会関係を大切にすることで、地域を保全・再生しようとしている事例を通じて、モビリティの可能性について見ていく。5章「ムラの枠組みをつくりかえる」は、地域の持続性の獲得のために主体(組織)づくりを取り上げ、地域内外の社会関係の再編と経済活動との関係を見ていく。6章「移住戦略を実行する」は、人口減少が著しい小さな自治体における特徴的な移住戦略を取り上げ、地域と自治体との協働関係のあり方から次世代へと繋げていく戦略とその実践をさぐる。
 「結」にあたる7章では、本書全体を踏まえた筆者らの論考であり、これをもって本書の結びとしている。

 本書は、全国各地で、自らの持つノウハウを活かし、自らが住まう地域を次世代に受け継ぐべく地域づくりを実践し奮闘している、20代後半から40代の若手・中堅に手にとってもらいたい。今後、地域を受け継いでいき、さらに次の世代へ受け継いでいくメインプレーヤーだからである。また、地域おこし協力隊など移住者にも手にとってもらいたい。移住者たちへの地域への期待感の所在がわかるだろう。そこには隊員の活動やその先の居住に向けたヒントも織り込まれていよう。もちろん、地域づくりを学ぶ学生にも。見た目の格好良さや小手先のテクニックの先に垣間見える、地域づくりの奥深さに触れてもらいたい。