勇気を与えてくれる歴史 −−−コミュニティデザイナー 山崎亮

 コミュニティデザインの仕事に携わるようになって10年が経つ。仕事のほとんどが行政に呼ばれて始まる。条件を整理してワークショップを開催するのだが、初回はいつも緊張する。参加者のほとんどが「お前は行政側の人間か」という目で私たちを見るからだ。不信感だらけの視線を感じながら住民との対話を繰り返し、批判や横槍を乗り越え、いずれは住民との信頼関係を構築し、結束力を高めることになる。
 そうなると今度は、行政の担当者が「お前は住民側の人間か」という目で私たちを見るようになる。住民運動を扇動している人のように見られる。悩ましい変化だ。
 常にどちらかの味方であり、どちらかの敵であるかのような立場である。しかし、そんな役割を住民として30年にわたって担い続けた人が太子堂地区にいる。そこには、悩みながら試行錯誤を続けてきたまちづくりの歴史がある。コミュニティデザインに携わる者にとって、太子堂のまちづくりは大きな勇気を与えてくれる歴史だ。