都市エネルギーシステム入門
住宅・建築・まちの省エネ・低炭素化

おわりに


 環境工学という境界領域分野の教育・研究に携わる中で、自分の研究領域を定義し、それを書籍としてとりまとめたいという希望は2001年に米国に留学していたころからずっと持ち続けていた。本書で図2・1として示した都市エネルギーシステムの全体図も、この留学中に試作したのがはじめである。その後、自分の所属が環境・エネルギー工学に改組され、「都市エネルギーシステム」という研究室を担当するようになり、また地球温暖化対策への関心が高まる中、その思いをさらに強くしていたが、本格的に執筆に取り組む気持ちになったのは2011年の東日本大震災以降のことである。原子力発電所の長期停止による節電の議論、中長期のエネルギー計画の議論の両面で、エネルギーの需要側をシステムとしてとらえ、都市というまとまった単位で、供給側と同じ土俵でその将来を議論していくことの重要性を強く感じたためである。しかし、2012年のはじめに構想をとりまとめてから完成に至るまで、2年半かかってしまったのは、私の能力不足もあるが、当初の予想以上にこの分野を包含する内容が膨大であったことが原因である。
 私の担当する研究室を「都市エネルギーシステム」と名付けられた、大阪大学の水野稔名誉教授には、学生時代以来ご指導いただき、今回も、草稿の全体に目を通し、先生が以前より提唱されているデマンドサイドエンジニアリングの観点から数々の有益なご助言をいただいた。大阪大学の鈴木胖名誉教授、毅一郎名誉教授には、筆者がエネルギーシステムの分野に視野を広げるきっかけを作っていただき、研究会などで長くご指導をいただいている。また、2001年の春から秋にかけて、私の留学を受け入れてくださった米国ローレンスバークレー国立研究所のアラン・マイヤー博士には、本書の内容を構成する数々の研究の着想を得る貴重なチャンスと助言を与えていただいた。
 第6章より第9章にかけて引用した数多くの研究成果は、この10年ほどの間に研究室に在籍した教員・学生諸氏との共同研究によるものである。特に、第7章の後半に記載した街区や都市単位の業務部門エネルギーシミュレーションは山口容平助教が博士課程学生の頃より続けてきた研究成果をベースにしている。研究室で使用しているシミュレーションモデルは年々改善され、精度を上げており、また関連機器の効率も変化しているので、本来今回の執筆に当たってすべての計算をやり直すべきであったが、膨大な作業が伴うため、やむなく各論文の発表時の数値をそのまま利用した。今後の研究発表の中で最新の値を公開していきたい。
 さらに本書の内容のいくつかは、筆者がこの10年ほどの間に参加した数々の研究プロジェクト、学会、研究委員会、研究会などでの討議の内容に多くのヒントを得ている。これらを主宰・参加された先生方、関係者の皆様に御礼を申し上げたい。
 本書の出版に当たっては、学芸出版社の前田裕資氏にいろいろと無理をお願いし、同社の越智和子氏には編集作業に多大な努力をいただいた。
 最後に、本書の執筆を支えてくれた家族に感謝します。
 
2014年7月     
 
下 田 吉 之