都市エネルギーシステム入門
住宅・建築・まちの省エネ・低炭素化

はじめに


 21世紀は、環境問題の深刻化と人口の都市集中が同時に進行する時代であるといわれている。したがって、地球温暖化問題をはじめとする環境とエネルギーの問題についても、都市という場においてこれらの問題にどのように対応していくかが重要な課題となる。
 このような時代の要請の中で、「都市エネルギー」という言葉が、学会の研究分野の名前や企業の部署の名前など、いろいろなところで日常的に使われるようになってきている。筆者が調べた限りでは、日本建築学会において、1970年前後より地域冷暖房など都市設備を扱う研究が盛んになる中で「都市エネルギー」という言葉が見られるようになっている。また、大阪大学の毅一郎名誉教授にご教示いただいたところでは、先生ご自身が1990年に科学研究費の領域名に「都市エネルギーシステム」という言葉を使われたのがこの言葉の用いられた最初ではないかということであった。
 人々の暮らしの舞台である都市をいかにして省エネルギー・低炭素型に転換していくのかを考えるうえでは、建築設備・建築環境、建築計画、都市計画、衛生工学、機械工学、電気工学、情報工学、また関連する人文・社会科学などさまざまな分野にまたがる学際的な取り組みが必要である。特に近年「スマートコミュニティ」が話題になり、この分野にさらにいろいろなバックグラウンドを持つ研究者・技術者が加わってくるようになった。また、国や自治体のエネルギー・環境政策の中でも、都市を単位としたエネルギーマネジメントの問題が中心的な課題として論じられるようになってきた。
 筆者は勤務先において、「都市エネルギーシステム」という名前の研究室を担当しており、この分野の教育・研究に携わる中で、新しい研究領域として、この分野のしっかりした定義と、そのシステムとしての全体像を示す必要性を感じてきた。そこで本書は、「都市エネルギーシステム」に対する筆者なりの定義と、低炭素化に向けた具体的な改善の方策、そのためのマネジメントの手法を示し、民生分野における都市のエネルギー問題の解決に関心のある、行政、産業界、学界でさまざまな分野に属する専門家、学生、さらには環境問題に関心の高い市民に対する入門書となることを目指して執筆した。ただし、上記の各分野に関する工学的基礎事項については省略しているところも多いので、必要に応じてそれぞれの入門書を参照していただきたい。
 本書によってより多くの人々がこの分野に関心を持っていただき、今後の都市の省エネルギー・低炭素化の進展のための何らかの参考になれば幸いである。