近居
少子高齢社会の住まい・地域再生にどう活かすか

あとがき

 当財団が出版している機関誌『すまいろん』2011冬号に、『近居・隣居のススメ─「住宅に住む」から「地域に住む」』と題した特集記事を掲載しました。編集委員の一人であった大月敏雄准教授の企画提案によるものです。また関連して平成22年11月に開催したシンポジウムでの、大月先生をはじめ、パネリストで登壇いただいた金貞均教授、上和田茂教授のお話が、近居・隣居は、少子高齢化がもたらす課題に住民が主体的に取り組める手立ての一つと思うきっかけとなりました。

 さて、当財団では住まいに関する研究活動の成果を一般向けに分かりやすく伝えるために、「住総研住まい読本」シリーズの出版に取り組んでおりますが、今回の第4巻は、『すまいろん』2011冬号に加え、平成25年11月に発行された一般社団法人日本住宅協会の機関誌『住宅』で、同じく大月先生が企画担当された特集「多世代居住」を加筆修正いただいたもので、近居の実態に関する調査研究や自治体の事例紹介などを含めて発行できたましたことは、日本住宅協会のご理解の賜物と改めてお礼申し上げる次第です。

 本書の提示している論点の一つ目は、「会いたいときに娘家族に会える」「孫に会える」「何かあれば飛んで来てくれる」親の生きがいや安心感、「経済的な支援が得られる」「子供の面倒を見てもらえる」「二つの住居で生活が可能」などの子の実利面、親子間の近居による付かず離れずの暮らしが、少子高齢化に向けて住まい手が成果を描きやすい対策として期待できる点です。日常的な現実のなかに高齢期の暮らし方や地域のありようを解決するヒントが隠されているようです。

 二つ目の論点は「人は住まいに住んでいるとともに、地域に住んでいる」ことを近居の実態から解き明かしている点です。若年層が親元を離れることで進む過疎化や高齢化も、近居による住民間の日常的な移動を「地域に住む」と捉えれば、地域で多様な年代が集まって住み続けているといえるのではないかということです。

 三点目は近居の生活実態から捉えた結果の住宅政策への提言です。親と子からなる核家族を標準世帯とした戦後の住宅政策は、高齢者をひと括りにして扱ってきた結果、施設整備や生活支援や介護サービスに実態を超えた税金が投じられ、生産年齢層への過度の負担となっているのではないかという疑問と住宅政策への提言です。

 本書では、すでに近居の生活実態を政策に取り込んでいる自治体が紹介されています。住民の生活実態を正確に捉え、政策に反映することは決して簡単なことではありませんが、住まい手の自主的選択の結果が政策に生かされると考えれば住まい手自らが作る政策ともいえます。

 本書に描かれた近居の実態を読み解いていただき、明るい兆しを感じられる暮らし方の選択や住宅政策に活かしていただき、さらには当面の課題解決の先に、少子高齢化そのものの解消にヒントを見つけ出していただければと、期待しています。

 末筆になりましたが、本書の執筆に関わられた大月先生を初め多くの諸先生、ならびに行政の方々、日本住宅協会の亀本和彦専務理事、谷川浩一業務部長代理、そして学芸出版社の前田裕資さんには心より御礼申し上げます。

一般財団法人住総研 専務理事 岡本 宏