実証・仮設住宅
東日本大震災の現場から

まえがき



 東日本大震災においては、多数の被災者が家を失い、避難所などに一時期身を寄せることとなった。甚大な被害のため避難所は被災者であふれかえり、劣悪な環境から被災者を解放すべく、仮設住宅を早急に提供することが大きな課題となった。避難者の数は最大で45万人を超える一方、震災直後は、通信インフラ、交通インフラ、エネルギー供給とも混乱を極め、まさに先の見えない中で、岩手、宮城、福島の被災3県を中心に仮設住宅の建設が手探りで進められた。
 筆者は震災当時、岩手県県土整備部建築住宅課総括課長として着任しており、以来、平成24年3月まで約1年間、仮設住宅の建設を中心とした被災者向けの住宅の確保対策に携わってきた。阪神・淡路大震災を上回る未曾有の災害と言われる状況で、様々な方の助けを借りながら、とにかく一刻も早く被災者の方が安心できる住まいを確保するため、仮設住宅の建設を急いだ。
 避難所にいる被災者を住宅に収容する手段として、仮設住宅は極めて重要な役割を果たす。震災後は、仮設住宅の建設がどれだけ進むか、被災者がいつまでに入居することができるかが、被災者にとって、また社会にとって高い関心事となった。仮設住宅建設については、国、県及び市町村がそれぞれ必死になって取り組んだが、震災直後の混乱、次第に明らかになってきた資材の不足、仮設住宅の建設場所となる用地の不足など、様々な壁にぶち当たることとなった。
 結果としては、震災から5か月経った8月11日には岩手県内の仮設住宅が完成し、宮城県、福島県を含め年内には仮設住宅の建設が一段落し、ほとんどの避難所が閉鎖される運びとなった。仮設であるがゆえ、住まいとして決して十分満足できるものではないが、それでも避難所閉鎖の報には、建設に取り組んできた職員や関係者一同、胸をなでおろしたものであった。
 その一方で、仮設住宅の建設を進めていくにつれ明らかになってきた課題も多く、反省しなければならない点は多々ある。日本は豊かな自然に恵まれている一方で、災害とは切っても切れない関係で暮らしていかなければならない国である。今後も起こりうるであろう大震災に対して、ますますしっかりとした備えをしていかなければならないことは言うまでもない。
 本書は、東日本大震災における仮設住宅の建設状況を振り返りながら、大規模な災害時における仮設住宅建設をめぐる課題を洗い出し、今後も行われるであろう仮設住宅建設のあり方を考察していこうとするものである。また、いわゆる「みなし仮設」の課題についても考察する。
 まずは序章において、仮設住宅とはどのようなものであるか理解を深めてもらうこととしたい。1章及び2章においては、岩手県を中心に実際にどのように仮設住宅の建設が進んでいったか、建設の実情をお示しすることとしたい。そして、3章及び4章では、仮設住宅建設を進めていく中で明らかになってきた課題や今後取り組んでいくべきことなどを述べていきたい。序章は少し固い内容なので、一般の方は第1章から読み始めてもよいかと思う。
 本書は、建築や防災関係に携わっている方のみならず、広く一般の方に仮設住宅のことを知っていただくことを目的としている。多くの方に読まれることにより、仮設住宅や震災対応についての理解が進むとともに、関心が薄れつつある被災地に改めて目を向けていただき、被災地の復興と防災の取組の進展につながるものとなれば幸いである。
 なお、本書中の意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることをお断りしておく。