実証・仮設住宅
東日本大震災の現場から

あとがき



 震災以来、仮設住宅建設完了まで、とにかく一刻も早く被災者に仮設住宅を提供しようと被災3県を中心に暇を惜しんで対策に当たった。課題は様々あったにせよ、なんとか完了までたどり着けたのは、国、県、市町村やプレハブ建築協会と会員企業、そして地元工務店等が必死になって取り組んだことによるものである。
 被災地のために、全国から応援にかけつけていただき、宿不足のため、建設工事従事者は毎日100kmの遠距離通勤という方も多かった。それでも、不満の声が聞こえてくるわけでもなく、被災者に住宅を提供するという仕事にやりがいを持って建設に当たっていただいたことは、本当に素晴らしいことと思う。
 被災者にとって、仮設住宅に入居できたことはどれだけ安心につながったことかと思うが、一方で現実には、仮設住宅完成後に届く被災者の声は仮設住宅の不具合に関する苦情ばかりであり、必死に取り組んだ職員にとっては気の毒と思うこともあった。
 マスコミはどうしても、行政の取組のうち、うまくいっていないところばかりを取り上げるが、真実を伝えるのがマスコミの責務であるのなら、必死にやっている職員や建設工事従事者の姿を取り上げるのも必要なことではなかったかと思う。
 震災以来の職員の負担は、本当に並々ならぬものがあった。気が張っているうちはまだよいが、仮設住宅建設を終え、しばらくして体調を崩してしまった職員もいた。被災者の苦情ではなく、喜びの声の方が届けば、少しは心理的負担が和らいだのではないかとも思う。管理者の立場として、職員の負担にもう少し配慮できていれば、と悔やまれる。
 一方で、仮設住宅の提供が、十分に被災者の役に立てたのか、改めて検証が必要なように思う。行政としては、仮設住宅を建てることで満足するようではいけない。目的は、建てることではなく、被災者の生活を再建することだからだ。生活利便施設のない仮設住宅団地の問題など、被災者の目線から見直さなければならない課題は多い。
 また、被災地の復興はこれからが正念場だ。残念ながら、復興予算の流用や、国家公務員のネット上の暴言が問題となってしまったが、復興に向けて一番必要なことは、行政が被災者にしっかりと向き合い、被災者の立場に立った対策を講じていくことだ。
 本書が発刊されることをきっかけに、一般の方には仮設住宅建設の真実を知っていただき、関係者においては様々な検証がなされるとともに、今後起こりうる大震災への備えと被災地の復興が進展することを願ってやまない。
 最後に、本書の発刊に当たって、数多くの学識経験者、国、県及び市町村の関係者、各団体や民間企業の関係者から応援の言葉をいただいた。厚く御礼申し上げて、筆を置くこととしたい。