地方都市の再生戦略


はじめに


 わが国では、それぞれの地域が、気候風土や長い歴史に育まれながら、豊かで多彩なくらしや文化を持っている。地方都市はそうした地域の中で文化、行政、経済などの核として重要な役割を果している。今日においてもその役割は変わらないが、都市づくりやその運営において様々な問題を抱えるようになっている。1960年代より大都市への人口集中が進み、過密過疎問題が指摘され、その後も、マイカーの普及やそれに伴う市街地の郊外化などにより、中心市街地の空洞化や商業機能衰退が進行している。近年では、環境・エネルギー問題の深刻化や人口減少時代への変化から、集約型都市構造への転換や都市の持続可能性の追究が行われている。
 大都市と異なり、地方都市の特徴は、他地域からの人口流入などが少なく、人口の増減やそれに伴う住宅や施設の立地変化は主として地域内で行われることである。その結果、市街地の郊外化や都市圏域の拡大などに伴う住宅や都市施設の立地変化は、もともと小規模で脆弱であった都市の構造や仕組みを変化させ、様々な問題を顕在化させている。一方、成長発展に対応するために整備されてきた都市づくりの仕組みは、そうした問題に対応できていない。都市計画分野においても、地方分権がかなりの程度まで進行しているが、まだ基本的枠組みや人々の意識は変化していない。今後は、地方都市など地域が主体となって、委譲されつつある各種の権限を駆使し、地域の資源や人材を活かしながら、主体的に創意工夫して都市づくりを行っていく必要がある。
 本書は、地方都市をフィールドとし、都市づくりやその運営に奮闘する行政担当者、計画コンサルタント、大学研究者が、上記の問題意識を共有しつつ、地方都市の諸問題を克服するための戦略を提示しようとするものである。取り上げられているテーマは、計画制度、都市交通、住宅施策、歴史的資源や景観、コミュニティビジネス、市民参加など、多彩であるが、各著者がもっとも専門とするテーマを取り上げている。
 編者は、これまで大学の都市計画研究室を長く主宰し、地方都市をフィールドとして調査研究を行っている。加えて、大学人プランナーとして、実際の計画策定、計画制度設計、都市デザイン、事業化やその評価、市民活動などに参画している。本書の著者たちは、そうした中でともに協働してきた方々でもある。
 本書を、都市計画や都市交通に関わる行政関係者、コンサルタントなどの実務関係者、研究者、大学院生およびまちづくりに関心を持っている議員、企業人、NPO等のリーダーなどにもぜひ読んでいただき、情報の共有あるいは交換ができることを願っている。

2013年3月
白く輝く山並みを遠望する研究室において
川上光彦