都市・まちづくり学入門


おわりに


 2011年3月11日、本書の執筆に入ろうとするちょうどそのとき、東日本大震災に見舞われた。未曾有の災害、想定外、という言葉が飛び交ったが、防潮堤という近代技術で押さえこもうとした津波は、やすやすと防潮堤を乗り越え、東北地方を中心に甚大な被害をもたらした。また、福島では津波によって原子力発電所が大事故を起こしてしまった。技術力によって快適な居住環境を創造しようとしてきた近代の都市計画のあり方を根本から見直す時期にきたといえるのではないだろうか。本書の編集会議でも、この震災を受けて執筆内容の再考が必要かどうかを議論した。結果、大幅な見直しは必要ないとの結論に至った。これは、本著がすでに未来志向の内容になっていたことを意味している。

 これから時代は大きな転換期を迎えるだろう。そして、それに呼応して、都市・まちづくりも大きく転換を図る必要があるだろう。じつは、本著の内容検討の進め方自体も、新たな都市・まちづくりと同じ過程を踏んだのではないかと思っている。従来のやり方であれば、委員長のリーダーシップのもと目次案が練られ、それにもとづいて研究会を進めていく方法がとられたと思う。一方、今回は、執筆候補者それぞれがみずからの問題意識を発表し合い、対話を通して意識や目標の共有を図っていった。当初はメンバーのなかにこうした新たな方法論に戸惑いがあったことは事実である。しかし、対話を重ねることによってやがて方向性が共有されていく実感がわき上がってきた。
 こうした状況を、物理学者のD.ボームは、対話によってコヒーレントな状況が生まれると説明している。物理現象におけるcoherentとは、レーザー光のように複数の波動がお互いに干渉しあうことによって強力なパワーを持つ状態を意味するが、同じように対話によって生まれる共感・共有が社会を動かす大きな力となるということである。本書の編集もこうした過程をたどったのだが、これは21世紀のネットワーク社会に求められる社会システムであるともいえる。本書そのものが「結果自然成(けっかじねんになる)」であった。

 協働作業で進められた本書の執筆は、多くの方々の尽力の賜である。本書のさきがけとなった「都市計画教育と都市計画に関わる人材育成に関する研究特別委員会」の委員長であった大阪大学名誉教授鳴海邦碩先生をはじめとする委員の先生方、「新しい都市計画教程研究会」を立ち上げて頂いた初代委員長の大阪産業大学教授榊原和彦先生、研究委員会の運営から本著の出版の時期に日本都市計画学会関西支部長として支援頂いた上原正裕氏、大阪府立大学教授増田昇先生、そして、研究委員会への助成を頂いた日本都市計画学会本部のみなさまに感謝を申し上げたい。最後に、編集者として適切な助言を頂き、叱咤激励を頂いた学芸出版社の前田裕資氏、編集作業にご尽力頂いた村田譲氏に心からお礼を申し上げたいと思う。

2011年10月
日本都市計画学会関西支部20周年を記念して
 執筆者一同