コミュニティ再生のための
地域自治のしくみと実践

 東日本大震災は、未曾有の規模で日本を襲った。失われた人命、財産、インフラの膨大さは、まだ記憶に新しいあの阪神・淡路大震災を遙かに上回っている。家族、財産を失った多くの人びとの悲しみや苦しみは、どれほど深くまた辛いものだろう。しかしながら私たちは、決してこの悲劇にくじけず、厳しい状況を直視しながらも、なお国土の復興、社会の再生に向けて、それぞれが立ち向かわねばならない。いや、むしろこれを歴史的大転換期と認識して、新しく日本の歴史を切り開く決意を持つべきではないだろうか。
 東日本大震災の被災地の現場でも、その集落や地域コミュニティにおける人びとの助け合い、支え合いが取り上げられ、地域コミュニティの絆が確実に生きていることが実証された。一方、阪神淡路大震災では、避難所滞在から災害復興住宅入居に至るプロセスで、地域コミュニティから切り離された人びとの孤立が軽視され、やがて孤独死が続出した。この阪神淡路大震災における痛切な反省は、今後の復興政策に当たっても、危機感を持って活かされていくべきであろう。
 本書は、近年広がりを見せている、主に小学校区を単位とする「地域自治システム」を形成する動きについて、広く一般にもわかりやすくまとめて紹介することを目的とする初めての書籍である。
 自治会・町内会といった「地縁型」組織とNPOや社会福祉協議会といった「テーマ型」組織がバラバラに存在し、役所内部の縦割型の組織と補助金のあり方がそれを固定化する状況が永らく続いてきたが、これらを一つの「地域自治組織」が包括し、機能的に地域が抱える課題の解決に当たろうとする動きが近年顕著になってきた。
 転機となったのは、やはり阪神・淡路大震災である。兵庫県宝塚市の先駆的な取り組みに始まり、平成の大合併に伴う地方自治法上の「地域自治区」関連の取り組みを経て、現在では単なる「地域分権」に留まらない「地域自治」の段階へと展開しつつある。
 その背景として、現代日本の地域コミュニティが、都市部では文化的な内部崩壊をきたし、郡部では人口減少による物理的崩壊を兆していることがある。つまり、事態は緊急性を帯びてきている。本書は、そのような危機意識のもとに企画された。
 地域コミュニティのこれからを考えるとき、単なる先祖返りを志向するのではなく、いかにして新たな地域を創造していくか、という未来志向に立たなくてはならない。「新しい公共」を具現し、自己統治能力を発揮する地域コミュニティの活力こそ、自治体全体の「住民自治」の強化につながるものであり、それらの総体が日本社会全体と国家の基盤的活力となると言えるだろう。
 本書では「地域自治」をめぐる動きの全体を紹介するため、各地の現場での豊富な実践経験と深い観察・分析力をお持ちの方々に執筆をお願いした。まず我が国のコミュニティ政策とNPOの展開から「地域分権」「地域自治」に至る流れを概観し、事例篇として、阪神淡路大震災とコミュニティの具体的な関係に始まり、兵庫県宝塚市、朝来市、三重県伊賀市、名張市、京都市、大阪府豊中市等を取り上げ、大都市、大都市近郊都市、地方都市、中山間部自治体の代表的事例を紹介している。
 本書が、自治体でコミュニティ政策を担当される人々のみならず、地域コミュニティ運営の現場に関わる全て人々の実践に役立てていただけることを願ってやまない。

中川幾郎