コミュニティ再生のための
地域自治のしくみと実践

 本書は、日本の未来はコミュニティの再生を足がかりにしなければ見えてこないのではないか、との問題意識に立ち、地域が地域力=自治力を獲得するための具体的な方策を現場の経験から学び、普遍化し、多くの地域で共有できるものとすることを目指したものである。なにより、地域の状況を一歩でも前に進めるのに役立つものであることを願っている。
 地域の「自治」の確立は、地域が持続可能であるための不可欠の条件である。地域課題の解決に取り組んだり、地域内循環(経済、人、情報、モノ、水、エネルギーなど)を作動させるのは、住民の自治組織やNPO、事業者等の地域の多様な主体だ。これらの主体が幅広く連携しつつ、自ら解決策を考え、資源を調え、実行していく力を持つ時に、「自治」が、そして「新しい公共」が姿を現す。そのような地域力=自治力を地域住民が持てるようにする仕組み、それが本書で取り上げたような新しい「地域自治システム」ではないだろうか。
 本書を執筆中の3月11日、東日本大震災が東北地方を中心に襲い、多くの方が被災し、コミュニティも大きな打撃を受けた。しかし、被災地の再生・復興はやはりコミュニティが基盤になるべきだろう。本書では、企画の当初からコミュニティを考える原点を阪神・淡路大震災の経験に求め、コミュニティが直面してきた数々の問題・課題から、例えば「外に向かって開く」や「多様なつながり」の重要性といった知見を得た。状況は異なるとは言え、ヒントになる部分もあろうかと思う。被災地が、地域自治を起点として、「補完性の原則」に基づく再生・復興を果たすことを願ってやまない。
 現在、地域自治システムは各地に広がり、内実においても深まりを見せている。本書は、最先端の現場に関わっている研究者らがその現実と切り結んだ成果だ。とはいえ、まだまだ学ぶべき実践は数多でてきており、本書を一里塚として更に研究を深めていきたい。
 最後に、本書の執筆にご協力いただいた方々に感謝を申し上げたい。
 本書の執筆陣は、はからずも全員がコミュニティ政策学会員であり、多くが自治体学会員である。これは、これらの学会が常に現場に軸足を置いてきたことの現れであろう。両学会における研鑽がこの本の基調をなす問題意識を磨いてくれたように思われる。
 執筆に当たっては、さまざまな地域自治の現場で奮闘しておられる方々、すなわち、自治体職員、研究者、とりわけ自治を自らの「生き方」としておられる地域住民の方々に多くを負っている。また、いちいちお名前を記すことはできないが、調査・研究、インタビュー等にご協力いただいた多くの方々に、一人ひとりのお顔を思い浮かべながら深甚なる感謝を捧げたい。
 本書は、学芸出版社の編集者である岩崎健一郎氏との出会いによって生まれた。日本の地域の未来への強い危機感と「地域自治」のあり方に関する問題意識を共有できたことが、今回の執筆陣が参集するに大きな力となった。執筆を粘り強く後押しされるとともに、読者の視点から様々なアドバイスを頂戴した。本書が少しでも読みやすくなっているとすれば、それはひとえに氏の努力の賜である。岩崎氏と出版の機会を与えて下さった学芸出版社に心からの感謝を申し上げたい。

執筆者を代表して 直田春夫