観光ビジネスの新潮流
急成長する市場を狙え
はじめに
観光とは、古代中国に伝わる四書五経の一つ「易経」に記された“觀國之光”に語源があるとされる。易経とは卜筮の書、すなわち占いのテキストである。ときの賢者は、国の光を観ること、そして魅せることは国家の繁栄に通ずるとして、観光が国の利となることを説いた。
日本が放つ固有の“光”を、これまで以上に多くの世界の人たちに観てもらおうと、観光立国推進基本法が施行されたのは2007年のことである。観光が日本の21世紀を支える産業として注目されるなかで、これまでの社会通念や既成概念では考えられなかったモノやコトが、一つの大きな観光資源として注目され光を放ち始めている。そして観光を取り巻くビジネスはその外縁を広げ、異業種とオーバーラップして、ときには垣根をなくし、ときにはさらなる内へと向かって本業となる核心へ深く迫りつつもある。
駅や空港、サービスエリアは、単なる輸送施設や中継地点、安全点検の場という役割だけでなく、商業施設やエンターテインメントの場としての新価値を帯び始めている。一つの流通形態として捉えられてきた大規模商業施設は、いつしか観光価値を増して観光周遊ルート途上に競って建設されるようになった。旅行とレジャーの線引きが難しくなり、観光産業自体が何であるのかが20世紀とは大きく異なり始めている。テレビドラマやスポーツ、そして医療までもが、重要な観光資源として注目されるようになっているのである。
旅行やレジャーが日本人のライフスタイルに根づいてから、わずか半世紀を経ていない。
欧米に追いつけ追い越せで世界を席巻した日本の製造業のように、日本の観光業もまた、欧米の模倣と独自の研究開発のなかに大きな成長があった。しかし気がついてみると観光産業界は、アウトバウンド一方向のビジネス競争に、時代の長きを費やしてきた。
成熟国家が歩もうとする観光立国へのシナリオは、その実、外貨獲得を目的にした発展途上にある国々の今に、見習うべきところも多い。ことさらアジア新興国の多くは、かつてないスピードでキャッチアップのときにある。アジア通貨危機(1997年)を乗り越えて、彼らが学んだ自国経済の発展に、明らかに観光というインダストリーが存在した。観光を、自国の文化や教育と等価に重きを置いて今に至る。
私たちは観光インバウンドにおけるこれからに、先進の欧米や近隣アジアに学ぶべきことがことのほか多い。本書では、観光ビジネスの新潮流を他国の事例をもとにさまざまな角度から検証し、これからの事業性をさぐるうえでのヒントになるべきキーワードや事象を追って紹介する。既存の観光資源、観光対象の新価値創造に向けて、さらなる光を増すために磨くべきポイントが、この1冊できっと見つかるに違いない。
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