観光ビジネスの新潮流
急成長する市場を狙え
おわりに
残暑厳しい2010年秋、一通のメールをいただいた。綜合ユニコム発行の『月刊レジャー産業資料』に毎月連載していた“台頭するニューツーリズム・ビジネス最前線”をもとに、「一冊の本にしませんか」というお誘いだった。
この年、日経新聞の元旦を飾る特集頁に、今年のキーワードとして躍ったのが、“ニューツーリズム”という単語であった。そこには、「旅先でしかできない体験や、地元の人との交流を重視した新しいタイプの旅行の総称」という説明書きとともに、産業観光やロングステイというニューツーリズムの一例や、言葉の周知における課題点が指摘されていた。連載がタイムリーであったことを実感した。
新価値創造の観光ビジネスは、すでに旅行会社や観光の現場、はたまた観光とは業種も異なる企業などで2005年ごろから取り組みが行われてきたように見受ける。異業種において観光寄りの新規事業を創出するという観点でいうなれば、21世紀を迎えたころから萌芽の兆しがみられたが、2007年、観光立国推進基本法が施行されたころに潮目も変わった。これからの成長産業として、観光ビジネスは認知のときを迎えたのである。
海外への取材が多い私は、常々、他国における観光振興がいかに戦略的に行われているかを、さまざまな角度から捉え、編纂したいと考えていた。そうした点では、スイス政府観光局やタイ国政府観光庁、ドイツ観光局、ハンガリー政府観光局、シンガポール政府観光局、マレーシア政府観光局、ハワイ州観光局、フィリピン観光省、韓国観光公社、ソウル市観光公社、台湾観光協会、香港政府観光局等々、関係諸機関の皆様の深いご理解があってのことで、この場を借りて御礼を申し上げたい。単なるディスティネーションの魅力紹介にとどまらず、本国での取り組み事例や政策、ヒストリーを、実に多彩に情報提供いただいた。
本書ではニューツーリズムという一語をあえて多用せず、他国における事例をマクロに捉えて紹介することに重きを置いた。双方向が叫ばれる観光交流ではあるが、内際タテ割りの観光情報発信が常道であった。そうした点からも、類書をもたない意義ある一冊が出来上がったと感じている。
末筆ではあるが、月刊誌連載を単行本に編纂することにご快諾くださった綜合ユニコムの山本昭夫編集長とご担当の山崎博さんへ、感謝の意を表したい。そして案の定、締切日があってないような進行スケジュールとなるも、辛抱強くお付き合いいただいた学芸出版社の宮本裕美さんには、深々と御礼を申し上げる次第だ。宮本さんの一通のメールから誕生したこの本が、一人でも多くの読者の皆様のお目に触れ、日本の観光の明日を考えるきっかけづくりになることを心から願って筆を置く。
2011年2月
広尾の事務所にて
千葉 千枝子
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