住環境マネジメント
住宅地の価値をつくる

はじめに

 
 成長社会時代につくられた住宅地は、私たちにとって負の遺産になろうとしている。それは、成長社会の大前提が崩れたからだ。すでに日本では人口が減少し、今後世帯数の減少も予想されている。人口構成は生産人口が減少し、高齢者や単身者が多く占めるようになる。こうした人口・世帯構造も含めた社会構造の大変化のもとで、戦後の成長社会のスキームとは全く異なるスキームが必要である。社会構造の変化の中で、良好な「住環境」を実現し、それを管理・更新するために、新たな価値と方法論の構築を目指すことが求められている。
 すでに、従来の方法により貧しい住環境がわが国に広がっている。土地所有者が自己の利益を最大限に得ることを優先して土地を利用するために、地域の文脈や近隣への配慮を欠いた建物を建て、農地や自然を減らしていく。こうして開発されたまちは、公園や道路を地元自治体に移管したいがために、画一的な最低水準でつくられる。そこには、地域の魅力や個性、歴史の重みや優しさ、温かさが感じられない。だから、人々に愛されない。やがてこうしたまちは、人口も世帯も減少すれば見捨てられる。空き地や空き家が増加する。さらに都市の経営も破たんする。
 では、これからどのように住宅地をつくれば良いのか。すでに開発した住宅地はどうすればよいのか。そのために都市計画やまちづくり、それを支える建築・不動産制度等はどのように変われば良いのか。
 本書では、既存の都市計画・まちづくりの限界と、これからのまちづくりとしての住環境マネジメントの必要性を示し、具体的に日本や英米の住宅地の事例を取り上げ、住環境という地域価値を地域でつくり、育てる仕組みと、それをより円滑に効率的に行うための都市計画やまちづくりをはじめとした社会システムのあるべき方向を示している。
 本書をお読みいただくと、現制度の中で多くの発見をし、住環境マネジメントの実践の意義と可能性を理解し、実務に役立てていただけるものと確信している。
 2010年12月25日
齊藤広子