住環境マネジメント
住宅地の価値をつくる

おわりに

 
 マンション管理研究で大阪市立大学生活科学研究科で博士(学術)を取ったばかりの私がはじめて着任いたしました大学は、マンションのない、岐阜の山奥の大学でした。そこで、桜ケ丘ハイツという住宅地に出会い、戸建て住宅地の管理研究をはじめました。
 「この素晴らしい住環境を維持するのに、マンション管理のノウハウを適用できないか」と考えました。アメリカ西海岸には、マンションと同じように戸建て住宅地にも管理組織があると聞き、その管理組織としてHOAの研究をはじめました。HOA研究は、私の大阪市立大学大学院生活科学研究科の指導教官である梶浦恒男先生によりすでに行われておりましたが、それ以前にも、筑波大学の指導教官である川手昭二先生が研究されており、その命を出したのは、現在の職場である、明海大学不動産学部の初代学部長石原舜介先生であることがわかりました。まさに、この研究に自分の運命と使命を感じ、続けてくることができました。
 HOA研究で終わるかもしれなかった研究が、住環境マネジメントへと発展できましたのは、2005年度のイギリスケンブリッジ大学への留学とそこでのレッチワース等の住宅地や管理組織の方々との出会い、帰国後、小林重敬先生とエリアマネジメントマニュアルを作成させていただいたことです。これにより、研究に視野の広がりと厚みをつくることができました。
 約15年間の研究成果をとりまとめ、赤崎弘平先生のおられる大阪市立大学大学院工学研究科で博士(工学)を取得し、2009年には日本建築学会賞(論文)をいただくことができました。このような名誉ある賞をいただくことができましたのは、建築がストック時代に入り、不動産学としての視点が求められていたからだと思います。改めて小泉允圀副学長をはじめとする明海大学不動産学部の皆様、特に多くの助言をいただきました中城康彦先生には感謝を申し上げます。
 振り返りますと、約30年前に筑波大学社会工学類で都市計画を学びはじめました。その後、不動産業界で実務につき、そして大阪市立大学の生活科学研究科で学び、現在は日本で唯一の不動産学部に在籍しております。こうした経験により、社会に役立つ、実務に役立つことを意識した、学際的で、かつ工学をベースにした、私法、公法、市場を考慮した研究へと導かれたように思います。
 こうした研究成果を実践に生かしたいと、実務家の皆様と日本型HOA推進協議会を立ち上げました。ここでは、住環境マネジメントの実践のための専門家育成として、すまい・コミュニティマネージャーの育成講座や、開発事業者によるマネジメントシステムの設定の仕方のマニュアルや消費者教育用のガイドブック作成を行っております。また、実際に住宅地をつくることにも参加させていただき、研究成果を生かし、開発事業者の思い・行政との協議等を住民に伝え、住民自らが住宅地の価値をつくり、育てるための「まちかるて」制度を創設しました。いま、現場から多くを学ぶとともに、研究成果の普及・実践の必要性を実感しております。
 最後に、本書を執筆するにあたり、多くの方々にご指導・ご鞭撻いただき、調査にも本当に多くの方々にご協力いただきました。ありがとうございました。また、学芸出版社の前田裕資氏には執筆構想段階から貴重なアドバイスをいただき、森國洋行氏には編集をご担当いただきました。そして、出版にあたり明海大学浦安キャンパス学術図書出版助成金をいただき、研究の成果をこのような形にまとめることができました。心より感謝申し上げます。

 2010年12月25日
齊藤広子