人口減少時代の都市計画
まちづくりの制度と戦略

はじめに


 人口が増え、都市が拡大する時には、都市計画の役割は、既成市街地改善と新都市建設を計画し、実行することと明確であった。しかし、都市が十分に拡大して、やがて都市の人口が減るようになれば、都市計画の役割も変わる。既成市街地の改善はなお必要とはいえ、新都市建設は不要となり、新たに、環境共生や都市景観向上等、いわば都市の質に関わるテーマが注目を集めるようになってきた。我が国の都市計画はまさにこうした転機に立っている。「低炭素」「コンパクト」等、都市の将来像を表わす新しい用語が次々と生まれているのはこうした背景による。その延長に、都市計画法や建築基準法の抜本改正を行って、市民が期待するこれからのまちづくりにふさわしい体制を整えようという議論がある。
 振り返れば、我が国の都市計画制度は、東京市区改正条例(1888年)、旧都市計画法(1919年)、現都市計画法(1968年)と継がれてきたが、現在の法改正論がこれまでと大きく異なるのは、前述した都市化から逆都市化(都市人口の減少)への変化に加えて、国主導の、換言すれば都市計画法を中心とした都市計画制度から、都市計画関係条例を中心とした都市計画制度への変化が起こっていることであろう。このことは、一般の市民や都市で様々な活動を展開しようとする事業者が、都市がどうあるべきかを提案する市民・民間主導のまちづくりが発展してきたことによってもたらされた。自分たちが使うまちがどうあるべきかは、まさに他人が決めることではなく、自分達自らが決めることであろう。
 ここで、まちの利用者の観点からまちのあり方を考える発想を「まちづくり」と表現した。しかし、当然ながら利用を巡っては、多様な思いがあり得るので、それらの合意を図ったり、各自のもつ基本的な権利が侵害されないようにすることも重要である。法律から条例に向かう都市計画制度は、こうした合意や権利保護が必要であることを踏まえながら、まちづくりを積極的に促すものとなるべきであると思う。本書が狙ったのは、日本の都市計画制度の淵源にも言及しつつ、こうした新たな時代における都市計画制度のあり方を論ずることである。
 1章では、日本の都市計画法制の歴史を辿り、明治政府下の東京市区改正から今日までのおよそ120年間にどのような都市の変化と制度の発展があったのかを論じた。2章と3章では、都市計画制度の2つの柱ともいうべき土地利用計画と施設整備計画を取り上げて、その沿革、考え方、現状と課題を論じた。4章では、市街地整備を取り上げ、特に成熟社会のまちづくりで重要さが増すと考えられる都市再開発に焦点を当て、「身の丈再開発」という新たな考えが必要になっていることを論じている。5章では、再開発の集積型ともいえる都市再生制度を取り上げた。世界の大都市が、様々な用語と制度で、都市の機能と空間の更新に取り組んでいる。我が国のそれはどこに特徴があり、成果と課題は何かを論じた。6章と7章では、まちづくりの最新の潮流である分権と参加に焦点を当てた。6章は参加型のまちづくりについて、その理論的背景と、制度の発展を論じている。7章では、都市計画における地方分権の最前線に立つまちづくり条例に注目し、国主導から市町村主導のまちづくりへの転換が、徐々に、しかし着実に進んでいることを示した。8章はケーススタディである。条例、再開発事例、参加の試み等、まさに我が国における都市計画・まちづくりのこれからの展開をリードする最新事例を紹介している。9章では、こうした議論の展開を踏まえて、改めて都市計画制度の課題、とりわけ都市計画法のあるべき姿に論点を戻し、その抜本改正の基本的な内容を提示している。
 本書の執筆者は、これまで3年以上にわたって東大まちづくり大学院の講義と演習に関わり、現場をもつ大学院生との議論を通して本書の内容を練り上げてきた。それぞれの分野の第1線で活躍する本書の執筆者の論稿が読者に大きな刺激を与えることを願っている。

2010年11月
大西 隆