都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ


まえがき

 この本の執筆者たちを中心に、2000年に『都市計画の挑戦─新しい公共性を求めて』を出版した。すでに早10年、私を除いては、当時、若く先駆的な役割を果たしていた執筆者たちは、それぞれの立場で枢要な地位を占め、社会的にも大きな影響力を持つようになっている。
 都市計画やまちづくりを廻る状況も大きく様変わりして、正に、地域主権による「新しい公共性」が問われるようになってきている。しかし、中央地方を問わず、日本の都市計画、まちづくりを廻る制度や組織は旧態然としていて、着実な歩みを見せているとは到底言えない状況である。
 だが、少子高齢化、地球環境時代的な現象はすでに現前し始め、もはや、時間的な余裕はなく、切迫した状態であることが日々実感されている。
 他方、地方分権一括法で、地域主権の方向性はすでに確立し、政治的にも大きな地殻変動が起こりつつあって、都市計画、まちづくりの領域も大きな転換期に入ったと思われる。
 このような空気を反映して、東京大学、九州大学、都市計画学会、建築学会、都市計画家協会など様々な専門家の団体でも連続的なシンポジウム、提案などが踵を接して行なわれるようになっている。


 このような時代認識を共有している、かっての執筆者たちと「都市計画の挑戦」に再び挑もうと二日にわたって会議を持ったのは、2010年の正月明けであった。
 今回は、初めから学芸出版社の編集者で、いまや、この分野における有力な批評家、工作者でもある前田裕資氏にも参加してもらい、最初から、本の上梓を前提として議論が進んだ。必ずしも全員の時代認識が合うわけではなく、一部の人は立ち去ったが、逆に、この仲間ではカバーできないけれど、「都市計画の挑戦」の上では不可欠の課題に対して前向きの姿勢で臨んでいる新しい分野の専門家にも声をかけることになった。福祉問題について広井良典氏、交通問題について中村文彦氏に声をかけることにし、ご賛同を得て参加してもらった。同様に農業支援、農村再生の課題にも取り組みたく、この分野の専門家にも声をかけたが、協力が得られず残念な結果に終っている。

 一読していただければ、執筆者各自の立場や経歴によって、書かれている内容は多面的で、理論的な取り組み、実践を通した歴史的な整理と展望、制度的な提案など様々な角度からの多岐にわたる論叢になっていて、必ずしも一つにまとまった提案になっているわけではない。しかし、全ての執筆者が同じような時代認識の下に、一歩踏み込んだ行動計画に移ることを要請していると思う。
 いまや枢要な地位にあって、時間に追われ、身体を苛む身でありながら、寸暇を割いて執筆していただいた仲間に厚く感謝したい。また、何時もながら、決して楽ではないこのような専門書の出版に力を貸してくれる学芸出版社、特に編集者の前田裕資氏の立場を超えたご尽力に熱い感謝の念を奉げたい。これは執筆者一同の思いでもあろう。
2010年の暑い夏       
蓑原 敬