電柱のないまちづくり
電線類地中化の実現方法

はじめに


 NPO法人電線のない街づくり支援ネットワークが立ち上がって3年になる。その間、日本の電線類地中化を推進させるためにセミナーや勉強会の開催など、様々な活動を行ってきた。しかし、日本の電線電柱は減るどころか、増えているようである。これは、国民が電線電柱が増えていることに気づいていないからなのかもしれない。一部の先進的な人たちは、まちのデザインや企画の段階で、電線類地中化を試みるが、そのハードルは高い。そのための、指南書も存在しない。
 ときおり、私たちのNPOに行政担当者や設計事務所、コンサルタントの方から、電線類地中化についての問い合わせがある。この方たちは、一様に「何をどうしたらいいのかわからない」状態である。これでは、日本の電線類地中化が進むべくもない。そこで、電線類地中化に関する専門家集団を自任する私たちが、こういった方々に、電線類地中化は実現可能であることを、具体的な事例と最低限の技術的な知識を交えてわかりやすく解説しようと、思い立ったのが本書の始まりである。
 本書は、行政のまちづくり担当者や観光に関わる方、建設コンサルタント、街路デザイン関係者、設計者、まちづくり団体のコアメンバー、学識者、研究者、建設会社、不動産会社、施工会社、などの方々に是非読んでいただきたいと思う。
 電線類地中化は様々なステークホルダーが存在することで、その実現を難しくしている。しかし、その利害関係以上に効果は絶大なものがあり、電線類地中化されたまちの当事者の満足度は非常に高い。
 例えば、苦労して電線類地中化を実現させることで、商店や住民の景観に対する意識が向上し、まちなみや景観が乱れるのを防ぐために重要伝統的建造物群保存地区に申請し、指定されたり、独自の「町づくり規範」をつくって、まちなみ保存をしている川越市一番街商店街はその好例だ。その様子は、他の事例とあわせて、2章で詳しく紹介する。
 また、電線類地中化のメリットとして、経済効果があげられる。大型公共投資が少なくなった昨今では、電線類地中化は街も人も元気になる、有効な公共事業といえよう。また、コストも思われているほど高くはない。ちまたに流布している数字は高規格の、それも10年前のもので、方法によっては、随分安くなっている。民間の住宅地開発ではここ数年で、確実に電線類地中化するまちが増えてきている。分譲戸建住宅の着工件数は2004年をピークに減少を続け、2008年にはピーク時より約20%減となった。その一方で、電線類地中化が行われた分譲住宅の着工件数は増加しており、2008年には着工件数が2004年の約3.5倍になっている(船井総合研究所調べ)。
 安全性の面では、電線類地中化は復旧に時間がかかるといったデメリットばかりが喧伝されているきらいがあるが、人命という観点では、地中埋設の方が断然安全だ。1995年1月に発生した阪神淡路大震災では、倒壊した電柱が道路をふさぎ、垂れ下がった電線が火災を発生させ、被害を拡大させた。地中埋設管は架空電線の1/80 の被災率というデータもある(NTT資料)。地震や台風などの自然災害に圧倒的に強く、街に本当の安心をもたらすのだ。

 このように、まずは、電線類地中化の素晴らしさを知っていただきたい。できれば、本書に掲げたまちを訪れてほしい。そして、読者の感性で感じたことを、一人でも多くの人に伝えてほしい。
 これを読まれた読者は、電線類地中化のフロンティアとして、ぜひ、日本の街から電線電柱をなくす意思表示をしてほしい。そして、その渦を日本中に広げてほしい。未来の子供たちに電線電柱のない安全・安心で美しいまちを残すために。
  2010年5月
NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク理事兼事務局長 井上利一