電柱のないまちづくり
電線類地中化の実現方法

おわりに


 電柱や電線のある風景に慣れてしまうと、それほど気にならなかったり、むしろ親しみを感じるという人も居る。でもよくよく観察し、考察もしていただきたい。西岸良平の漫画『三丁目の夕日』の時代の、木柱に2、3本の電線が架かっている頃の姿と今日のそれとでは全く容相を異にするものである。歩道にはみ出したコンクリートむき出しの大きな柱に、10数本の各種架線と設備機器類が露出し、そこからまたクモの巣のように四方八方に這っていく有様は、明らかに醜悪な境地である。これらを未来に引き継ぐ都市基盤と捉えて、安全で、耐久力と秩序あるものに改善していくことは、公共の責務であろう。放置することは、工場排水や生活排水を公共下水ではなく、そのまま川に流し続けることに等しい。
 下水道整備技術においては、遅ればせながらもこの半世紀を経て日本は先端的な域に達し、今では途上国に多くの技術協力を提供するまでになっている。電線類地中化は、これまでの初歩的で実験的な域を脱し、本腰を入れる段階を迎えている。そのためには、下水道の歴史に見られるように、層の厚い技術、技術者、研究者の存在が不可欠であり、法制度の完備、そして住民の理解と協力が必要とされる。しかし、これからの日本の都市環境下で、電線類地中化に成果を挙げることができるなら、事情の似たアジアをはじめ世界の5分の4を占める国・地域のモデルとなり、技術発展・経済面のメリットもはかり知れないだろう。
 幸い、最近になって京都市、奈良市、そして大阪府などの公共団体と、当NPO法人との交流が進み出した。そして行政の中にも、地中化への強い意欲と合わせて、深い悩みがあることも解ってきた。特に大阪府は、府下のまちなみ・まちづくりに熱心な自治体を応援する独自の画期的な支援制度を創設している。これは従来の国の補助制度の大半が、地元自治体の負担が1/2以上求められるために、実際には厳しい財政状況の中で、動きが取れないことを察して、その分を府が支出しようとするものである。
 当然多くの地域が名乗りを挙げたものの、いざ実行となるところで、電力会社とも、地元住民ともコミュニケーションの方法が見つかりにくく、困った状況になり、私たちとの交流が始まったのである。そこで完全な答えが出た訳ではないが、無電柱化に弾みをつける有効な方法、そしてアクションプランにつながる多くのヒントを得ることができた。そして改めてこの事業に関して情報が余りにも未整理であることが判明した。
 電線類地中化は、大きく取り残された課題である。しかし解決するのに、それほど困難や複雑な要素は見当たらない。明らかに、これまでのまちづくりの盲点であり空白部であった。そのことに気づくだけでも、大きく事態を変える力にはなるだろう。本書が、まずはそのような動機づけとなることを願うところである。
 本書は、そのような状況認識と実行への試み、そして交流の中から生み出されたものである。先進的な意欲と取り組みを通じて、多くの情報を提供された地域、行政、企業の方との合作である。また全国的にも例のない出版企画を後押し、本書を世に送り出せたのは学芸出版社の前田裕資氏、越智和子さんのお力であることを記し、深くお礼を申し上げたい。
  2010年5月 
NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク理事長 高田 昇