「東大まちづくり大学院シリーズ」の刊行にあたって


 東京大学には、若い世代を中心としつつも、還暦を超えた方まで、様々な年齢層が学んでいる。しかし、社会人だけを対象として、しかも、就業と両立できるカリキュラムを提供しているのは、東大まちづくり大学院(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程都市持続再生学コース)だけである。

  まちづくりとは、都市の利用、開発や保全に際して、法制度に基づく都市計画、市民の発意と合意に根差した活動や、社会的要請に応えビジネスチャンスを生かした企業の種々の都市への関わり等を含んだ、人と都市の多様な関係を広く包み込んだ概念である。社会人を迎えるに当たって、私たちが、あえて教育・研究の領域を広く設定したのは、現代都市の機能や環境が、単に都市計画の制度によって形成されているのではなく、市民、市民組織や企業等、都市に関わる多くの主体が、個の領域を超えて、公の領域に働きかけたり、自ら社会のための活動を担う手段や力を持つことによって形成されていると考えたからに他ならない。

  東大まちづくり大学院では、まちづくりをテーマに講義や演習を行うだけではなく、社会の一線で活躍している大学院生が、そこでの課題を教室に持ち込んで、議論や研究を進めるというスタイルをとっている。これに応えるために、大学の研究者だけではなく、社会のそれぞれの分野で活躍している講師が講義や演習を行うという方法も定着させてきた。

  本シリーズは、東大まちづくり大学院での研究と教育の成果を、まちづくりのテーマごとにまとめることによって、広くまちづくりの実践に関わる方、大学や大学院でまちづくりを学んでいる方の参考にしようと試みたものである。折から、日本の都市は人口減少に向かい、都市化時代に作られた諸制度は大きな転換を求められている。それは量より質を重視するまちづくりへの転換ということができようが、具体的内容は多様である。本シリーズが直面する課題に応える道しるべとなれば刊行の目的は達せられる。


2010年1月
東大まちづくり大学院コース長 大西 隆

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

既 刊

・『低炭素都市〜これからのまちづくり(2010年1月30日発行、A5版256ページ、2700円+税)


続 刊

・『都市のマネジメント』
・『まちづくりの制度と戦略』