地域主権で始まる 本当の都市計画・まちづくり
法制度の抜本改正へ

あとがき

 
 「まえがき」にも書いたように、今回の政権交代は、単なる政治的な表層の交代ではなく、自由民主党の政権下では果たせなかった中央集権的な官僚支配の構造の実体にメスを入れる維新的な出来事だと思っている。それが一つの政権で完成するとはとうてい思えないが、口先だけでない地方分権に向かって明らかに新たな一歩が踏み出されたと考えている。
 
 私は、官民の双方の立場で、半世紀に渡って都市計画という仕事に携わってきた。建設省での徒弟時代、海外での学習と経験を踏まえ、本格的に都市計画の仕事に取り組むようになったのは、68年新都市計画法の制定の過程を、当時の建設省住宅局で建築基準法集団規定の担当者として目撃し、さらに都市計画法の大改正を受けた1970年の建築基準法大改正の作業に従事してからである。その当時の住宅局幹部の思いがけない更迭によって、建築基準法を建築物単体の技術基準を扱う建築基準法と集団規定を扱う市街地建築法に分離するという当初の目論見が完全に挫折し、口惜しい思いのなかで法改正作業に従った思い出がある。その直後、都市局(当時)に異動して、改正法に沿って全国の用途地域を塗り替える作業を実質的に指導した経験がある。
 その時以来、何とかして都市計画や建築基準法の制度や運用を世界標準に近い近代的なものにできないかと思いながら、語り継ぎ、書き継いではや40年が経過した。
 
 国交省も都市計画法の大改正に乗り出すと言っているが、どうやら形だけでは済みそうにない状況に見える。おりしも、都市計画家協会では都市計画法大改正についての非常に前向きな柳沢提案が出された。私は、何とかこの機会に今まで繰り返し語り、書いてきたことを早急に本にまとめて世に問い、日本の都市計画や建築の集団基準を世界水準に高める一助にしたいと思い、今までもお世話になっている学芸出版社の前田裕資氏に無理なお願いをしてみた。この願いが聞き届けられ、今回の出版に漕ぎ着けられたのは、ひとえに前田氏の尽力によるものである。深く感謝の念を伝えたい。
 私に自信を持たせて背中を押し、私をこの本の出版に追いやったのは、都市計画家協会理事の柳沢厚氏である。紙面を借りて感謝の念を伝えたい。また、この本の中味は、過去に私が座長として指揮した委員会などの報告書に、自ら書いた文章を一部修正したうえで再編集したものが多い。これらの委員会は、委員会の委員である先生方の見識と財団やコンサルの技術者たちの採算をまったく度外視した地道な作業なしには成立しなかった。特に、この作業に労を厭わず取り組んでくれた、森記念財団、都市計画設計研究所、都市環境研究所、住宅・都市問題研究所などの諸君に感謝したい。
 
 この本は以上のような成立事情であるため、今まで私が書き溜めてきた文章を急いで編集し整理し直すという作業がベースであり、重複があったり、論理の一貫性がなかったりする部分も多々あると思う。しかし、この提案に対して幅広い、かつ前向きの批判がなされ、都市計画法、建築基準法集団規定、国土利用計画法の再編成に関する激しく、深い議論が展開する一つの材料になれば望外の幸せである。
 
蓑原 敬