生活支援の地域公共交通

路線バス・コミュニティバス・STサービス・デマンド型交通

あとがき

 地域公共交通活性化・再生法に基づく総合連携計画の策定が全国で進められているが、すべてに共通して「こうすればうまくいく」という方程式を見出すことは難しい。しかし、地域公共交通の現状を見つめ直し、「真の」活性化・再生をめざすためには、共通した「考え方」があるように思う。
  地方部を中心に多くの市町村では、不採算バス路線に対する公的補助を投じている。しかし、その目的は、既存のバス路線を単に維持するためのものであり、市民生活に欠かせない移動に対して、公的補助を投じつつも、「どこまで」「どのように」確保するかという議論がほとんど行われてこなかった。とりわけ、本書で対象とした「生活支援交通」は、少量の移動ニーズに対応する交通サービスであるため、交通事業者による内部補助を期待して運行を継続できるものではない。だからこそ、自主運行バスのような非在来型交通やSTサービス等の狭義の福祉交通も含めて、地域の生活支援交通にどのような役割を求め、それをどのような責任分担(市町村・地域・交通事業者)で守っていくかの「ビジョン」が求められる。それを描くのが生活支援交通の全体計画である。
  一方で、生活支援交通は、地域や市町村、交通事業者がともに「育てる公共交通」であるという点も見逃せない。幹線的な交通とは違い、多頻度の運行は難しいが、利用者の多くは沿線地域住民であるため、通学や近隣への通院・買物送迎などにターゲットを絞り、「きめ細やかな」運行計画を設定できることが特徴である。「生活に使える交通」を地域が提案し、交通事業者は「輸送のプロ」として参画する。そして、市町村は、地域間の調整や最低限の移動を確保するための財政支援を行う。こうした「現場視点」のアプローチがこれからは求められる。
  本書は、執筆陣の研究成果や経験を結集させ、こうした課題に対する考え方を整理したものである。筆を収める今となっては、書き及ばない点も多々あるが、読者のみなさんからの忌憚のないご示唆を頂戴し、次の機会に整理したいと思う。 

  なお、末筆になって恐縮であるが、本書は、「都市科学叢書」として、東京都立大学名誉教授・石田頼房氏からの寄付金により出版の運びとなった。謹んでここに感謝の意を表したい。

平成21年3月 バスの車窓を眺めて 
吉 田  樹