生活景

身近な景観価値の発見とまちづくり

あとがき

 日本建築学会には常置委員会として都市計画委員会(小林英嗣委員長)があり、その中に都市景観小委員会*が位置づけられている。この研究組織は都市計画委員会の中でも古くから存在する老舗の小委員会の一つで、これまでにも研究成果をもとに『景観法と景観まちづくり』(学芸出版社、2005)などを著している。
  また、毎年初秋に開催される日本建築学会の大会開催の際には、会場近郊で景観形成に先進的な取り組みをしている都市を訪ねて、地元の市民や研究者、自治体の協力を得ながら、見学会やシンポジウムなども企画している。
  小委員会の活動の中核をなすものが、建築学会大会におけるパネルディスカッションや研究協議会である。これまでに、2000年と2003年の建築学会大会において、「生活景」をキーワードに、地域住民の主体的な協働により将来像を描き、それを共有することを目指したまちづくりのプロセスと手法、そのための組織やルールづくり、地域外との交流や支援方法などについて議論を重ねてきた。さらに、2006年度から3年間にわたって「生活景」をテーマに掲げて活動を進めてきた。
  本書は約10年間に及ぶ「生活景」に関する研究成果の一端に位置づけられるもので、都市景観小委員会のメンバーに限らず、多くの日本建築学会会員や市民とのディスカッションを通じて得られたものである。
  従来、学会活動による共同研究成果は、多くの執筆者の参加のもとにとりまとめられる性格上、資料集や事例集のような体裁になることが多かったが、本書においては、新しい「生活景」という概念を社会に広めていくことを目指して、本書全体を通じて起承転結のあるような編集を進めることを心がけた。そのため、手弁当の作業にもかかわらず編集委員会を何度も開催するとともに執筆者にも数度にわたって修正依頼をするなど、丁寧に内容を育んできたとの印象を持っている。全体の編集には後藤、小林、志村があたり、各部のとりまとめを、浅野(第U部)、志村(第V部)、宇於(第W部)、宮脇(第X部)が行った。

 日本建築学会編として公刊するにあたり、景観研究の先達である鳴海邦碩・大阪大学名誉教授と西村幸夫・東京大学大学院教授による査読の機会を得た。両氏ともご多忙中にもかかわらずすべての原稿にお目通しをいただき、丁寧なご指導を仰ぐことができた。この場をお借りして、両先生にお礼を申し上げる次第である。
  また、多人数の執筆者による著作にありがちな不統一感を危惧したが、この分野の出版を数多く手がけている学芸出版社の前田裕資さんには企画段階から編集段階まで一貫してアドバイスを受け、宮本裕美さんの力添えを得て、上手にまとめていただくことができた。記して感謝の意を表したい。

 本書は、「生活景」という新しい景観の見方を社会に広めるとともに、「生活景」の発見や価値づけ、共有するための手がかりを市民に示すものである。これにより、「生活景」が随所に息づくわが国の成熟社会のまちづくりに対して、わずかながらでも寄与できたならば、これにまさる喜びはない。

2009年3月
日本建築学会都市計画委員会都市景観小委員会・主査
後藤春彦