住民主体の都市計画


おわりに

 本書の企画は2007年の3月に始まった。そもそもは当時出版された『自治体都市計画の最前線』(学芸出版社)のような、まちづくり事例の本を作らないかという依頼だったのだが、単なる事例紹介では面白くない、何か新しい方向性を提起したい…と考えているうちに、思いついたのが「住民主体の都市計画」という言葉であった。
 当初は漠然としていたが、コアとなるメンバーで議論し、企画書をまとめる中で、徐々に狙いが固まっていった。行政による策定・決定への参加から、いずれ住民が主体的に決める形に変わるだろうという思いと、「まちづくり」という言葉が氾濫する今だからこそ「都市計画」に着目し、その意義を問い直す意図があっただろうか。
 こうしてまとめた企画書を全国の若手研究者・実務家へと送って、あてはまりそうな事例の情報を提供いただき、情報提供者が集まった研究会や執筆者が参加するメーリングリストで意見を交換しながら、話を進めていった。執筆者に依頼した原稿を編者がまとめるだけでは面白くない、つくる過程で関係者が相互に交流し、そのネットワークから新しいものが生まれれば…といったあたりを狙ったのである。
 実際、交流は有意義なものだった。各執筆者が書こうとする「あらすじ」を事前に提示して全体で共有することで、各原稿の狙いや役割が明確になったし、タイトル「住民主体の都市計画」を巡るメールでの議論は、共通理解をつくるのに役立った。提出された草稿を全員が読めるようにした上で、執筆者が集まる会を開いて相互に意見を交わしたのも、原稿の質をより高めるのに効果的だったと思う。
 2年に渡るこうした手順に参加いただいたことで、本書の内容はより良いものとなり、「住民主体の都市計画」の概念も鍛えられたのであって、その意味で本書を企画編集したのは執筆者全員といえよう。今後もこの緩やかな繋がりを維持していきたいと考え、編者は「住民主体のまちづくり研究ネットワーク」としている。この中には、きっかけと貴重な助言を下さった学芸出版社の前田氏並びに井口氏も含まれよう。
 10章でいろいろと論じてはいるが、「住民主体の都市計画」はまだ確固たる概念とは言えず、理論化も十分ではないだろう。しかし、本書の事例にみられるように、すでにその端緒は開かれているのであり、今後このような捉え方はより重要になるだろうし、またこのような方向の活動が発展していくことが期待されよう。本書がそのための一助となれば幸いである。

 2009年1月
 コアメンバー一同