体験交流型ツーリズムの手法

地域資源を活かす着地型観光

おわりに

 かつてアウトドアが盛んなことで知られる北海道のまちを訪ねたときのことである。あるアウトドアスクールのスタッフ研修のためニュージーランドから来日していたトレーナー(講師)が深刻な表情で話しかけてきた。
  「あなたは東京から来たのですか?」
  「はい。そうですが…」
  「スタッフの研修のため来日したのですが、彼らの技術があまりに低いのに驚きました」と語りだした。初対面のまったく関係のない私にいわれても困ると思ったのだが、彼は続けてこういった。
  「このままでは死人が出てもおかしくない」。
  そして「人の命を預かる仕事なので確かな知識と技術がなくてはならない。資格制度をつくるか最低限のガイドラインが必要で、それは民間ではなく政府の役割です」。そう語る彼の真剣な表情から、ことの深刻さが伝わってきた。
  彼に頼まれ、後日、主要な野外活動団体の連絡先を知らせたが、その後このことは忘れていた。そして02年、北海道で「アウトドア資格制度」がスタートしたのを知ったとき日本の現状を憂いていた彼のことを懐かしく思い出した。この間、10年近い歳月が流れていた。
  日本で海外渡航の自由化がはじまったのは64年。日本人の海外旅行の歴史はまだ50年にも満たない。新たなフェーズを迎えようとしている国内旅行もパッケージツアーが生まれてからさほど歳月はたっていない。しかし地域づくりは人の暮らしの長さだけ歴史があり、これからも引き続き営まれ続けるものである。
  本書では、地域が主導的な役割を果たしながら集客交流サービスを展開するひとつの方向性について述べてきた。「観光化」の光と影の両面を見極めながら、地域の実情にあわせてマスツーリズムにかわる新たな旅の形態を生み出していくことが、地域の伝統や文化を守り活性化へ導くひとつの道筋である。
  過日、90年代から人気の高い温泉地の写真を見た。メインストリートの写真からはどこのまちか判別がつかなかった。外部資本も流入して日に日に変貌を遂げ、このまちもまた画一化が進んでいた。難しいことは承知の上で、まちの個性を生かした魅力づくりを期待したい。
  今後、新たな旅づくりにおいて、観光協会、まちづくりグループやNPO、宿泊施設、地域の旅行会社、そしてバス・タクシー会社、農事組合法人や漁協など、各地にさまざまな地域オペレーターが誕生するだろう。黎明期のいま、そうした地域オペレーター同士が情報交換を行い、自立に向けたさまざまな取り組みを支援するネットワークづくりが必要ではないかと思われる。ご関心をお寄せの方は、ぜひ下記の連絡協議会まで。
  最後に、本書の執筆にあたって、なかなか筆が進まない私を我慢強く励ましてくださった学芸出版社の前田裕資さん、そして本書の中核となるプログラムづくりの情報を提供してくださった各地のコーディネーターのみなさんに御礼を申し上げたい。

大社 充
平成20年5月

 

■全国地域オペレーター連絡協議会
○趣旨(目的)
地域資源を活用した旅づくりの主体となる全国の地域オペレーター(地域プラットフォーム)が、それぞれの現状や、商品開発や品質管理、販売チャンネルの開拓といった抱えている課題について情報交換を行ったり、地域におけるプロフェッショナル人材の育成や組織マネジメントについての研究や研修を通して地域振興とオルタナティブな旅の発展に寄与することを目的とする。
○参加対象者
旅行業や宿泊業、旅客運送業、アウトドアやエコツアーを営む事業者、観光協会や環境・自然保護NGO、まちづくり団体やNPO、都道府県や市町村の担当者など、本会の目的に沿った団体および個人
○活動内容(案)
@着地オペレーター連絡会議の開催 (年1回程度)
A人材育成やマネジメントの研究・研修会の開催
B機関誌やメルマガの発行
C首都圏マーケットの開拓における協働サポート
Dその他、本会の目的を達成するための諸活動
○お問い合わせ先(事務局)
NPO法人グローバルキャンパス
「GCJ総研」内
〒150-0001渋谷区神宮前6-23-13-5D 
電話:03-5469-0680/FAX:03-5469-682