体験交流型ツーリズムの手法

地域資源を活かす着地型観光

はじめに

 産業の創出に頭を悩ませる地方都市やその周辺市町村では、今新たに観光・集客交流に取り組む地域が増えてきている。財政的に厳しさを増すなか、地域資源をうまく活用することにより多くの資金を要することなく交流人口を増やす試みに期待が寄せられているのである。
  90年代後半から「体験メニューづくり」が全国各地で進められたのは記憶に新しい。歴史や文化、自然などの地域資源を活用した体験プログラムをつくり、それらを素材に域外の人をも呼び込んで交流人口を増やそうという試みであった。ところが、旅行会社と提携して修学旅行生の受け入れを可能としたわずかな地域以外は、メニューはつくったものの地元小中学生の体験学習に利用される程度で域外から人を招き入れるには至らないのが実際のところであった。また、目ぼしい資源がなく観光での集客が難しいとなると、農村の再生も視野に入れ、「田舎ぐらし」の希望者を募るなど移住促進に力を入れるのも全国的な傾向である。
  一方、旅行業界に目を向けると、国内旅行が低迷するなか新しい形態の旅が注目を集めている。従来は、大規模マーケットを背景に大都市圏の旅行社が主催する発地主導のパッケージツアーが主流であった。ところがインターネットの普及など情報化が進み、旅行社の情報優位性が崩れ、旅人のニーズも大きく変化した。そして登場してきたのが、地域のことを熟知した地元の人が主導的な役割を担って旅づくりに取り組む「着地型」とよばれる旅である。
  パッケージツアーが商品化されて以降、旅の事業者はマスマーケットに対してスケールメリットを追求しながら旅の商品を流通させてきた。一方、顧客を受け入れる地域の側では「観光化」が推し進められ、この数十年の間に、多くの観光客を受け入れることで地域自身が「消費」され、大切なものを失っていったと感じさせるところも少なくない。
  本書は、この「観光化」を、人と人の関係性の視点から定義し、その定義にもとづいた地域づくりに役立つ旅の本質、およびその形態や流通について、事業者と地域の両面から考察しながら、具現化に向けた方策を提示しようと試みるものである。観光化されない地域づくり、お客さま扱いしない交流型サービスといった、マスツーリズムとは、ひと味異なる地域主導のオルタナティブな旅を誰がどのようにつくって流通させていくのか具体例を示しながら議論を進めていきたい。
  なお本書は、過去20年にわたって全国各地で地域資源を活用した地域主導(着地型)の旅を企画運営してきたグローバルキャンパスの豊富な経験と蓄積されたノウハウにもとづいて書かれている。特にプログラムづくりにおいては幅広い事例を交えながら詳しく解説してあるので、エコツーリズムやグリーンツーリズム、長期滞在型観光や産業観光など「ニューツーリズム」と呼ばれるあらゆる分野の旅づくりに参考になると思われる。お役立ていただければ、幸いである。