都市づくり、まちづくりは理系の仕事か、文系の仕事か? こうした問いかけは、私にとって古くて新しい課題である。このような問題意識を持って、随分以前から、できるだけ文系の人たちと都市について考え方の交流を図ることを心がけてきた。なぜならば、都市計画は、日本でこそ工学系の分野として見られているが、諸外国では、文理が融合した独自の分野を形成しているという事実があるし、また、経験的にも、文系の知見が都市計画には必要だということが容易に認識できるからである。
そうした交流の機会に、次のようなことをよく言われた。「都市づくりの提案は暴力的だ」「都市計画では本当の都市はできない」「つくる都市は魅力が無く、成る都市に魅力が生まれうる」などなど。言われ放題というきらいがないでもない。
彼らが言おうとしていることは理解できないことはないのだが、それではどうすればいいのかについて問うと、いつもはぐらかされる。彼らは現象を発見して説明し、批評することには情熱を傾けるが、つくる立場からは一歩下がっていることが多い。そう指摘されることを、私たちのようないわば理系の専門家の尻を叩いているのだ、と好意的に受け止めるように心がけてきた。
本書は、私が提案して設立された「都市大阪創生研究会」の活動およびそこから広がったまちづくり活動やそれを支えるまちづくりについての考え方をとりまとめたものである。本書の全体を通じて通底音のように流れているのが、「都市の魅力は人びとの活動が生み出す」という確信である。「貴方まかせでは魅力のある都市を生み出すことはできない」。
「はじめに」でも述べたが、ロバータ・グラッツはその著書の中で「まちづくりはアートであって科学ではない」と述べている。まちづくりには、科学的な論理性だけでは対応できない、「暗黙知」のようなものが必要だと言うのである。こうした考えは上に述べた文脈からすれば「文理融合」とも相通じるところがあると言えよう。
理系まちづくりや行政まちづくりの現場で感じられる、「まちづくりの真の感触」からの乖離感がなぜ存在するのかについて、本書に述べた活動やそれを契機とした思索によって次第に理解できるようになった。そして、「まちづくりの真の感触」というものが私たち共通のものとして感じられるようになった。取り組んでみてはじめてわかったのである。残された課題は、このことをいかにして伝えうるかということである。本書がその第一ステップである。
さて、末尾になったが、御礼の言葉を記しておかなければならない。本書は、「都市大阪創生研究会」の活動があってこそ生まれた。この研究会を支え、運営に当たっていただいた諸企業・団体の関係者の方々、その支援のもとで具体的なワーキングの活動に取り組んでいただいた方々に感謝したい。とりわけ、この研究会の発足以来、様々な側面から支援いただいた竹田勲央さん(蟹AO竹田設計専務取締役(発足当時))、岩本康男さん(大阪市計画調整局長(発足当時))の貢献なくしては、研究会のかくも長い継続はなかったと思う。また、専門家として様々なアドバイスをいただいた田端修さん(大阪芸術大学教授)、江川直樹さん(関西大学教授)の力添えも大きかったことを感謝の意をこめて記しておきたい。
鳴海邦碩
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