都市の魅力アップ


はじめに

 都市は行ってみたいという魅力にあふれていなければならない。訪れる人がいなければ都市そのものの概念がくつがえる。「住んでみたい都市」「住み続けたい都市」は必ずしも「行ってみたい都市」ではない。それでは、どのような魅力があれば都市は「行ってみたい都市」になるのか、そのような魅力はどうすれば形成できるのか。こうした課題に対する私たちの回答が本書である。
 行ってみたい都市の魅力づくりのためには、集客施設を整備すべきなどと紋切り型に語られることが多いが、もっと具体的にきめ細かく検討される必要がある。私たちは魅力のある都市とはどんな都市なのかということを、実はみんな知っているのではないかと思う。というのは、そのような都市を見つけ出して訪れているからだ。
 それでは、そうした魅力はどのようにして形成できるのだろうか。都市の魅力は複雑で、あるいは所与のもので、簡単には形成できないのではないかと思う人が多いと思う。できるのは、いわゆるハコモノ整備型ぐらいではないか。これに対する私たちの回答は、「楽しくまちづくりに取り組むことによって可能だ」ということである。
 以上について論じたのが、第一部である。ここでは、「まちづくりに、取り組む、あるいは参加する人びとが楽しいからこそ、活き活きとした都市が生まれる。貴方まかせのまちづくりでは、楽しい魅力のある都市を生み出すことはできない」と結論づけている。
 第二部は、「都市の魅力発見」と題しており、私の呼びかけで1998年に設置された「都市大阪創生研究会」での活動の過程で、執筆者が発見・確認した都市の魅力について論じている。
 一つは、人が住んでこそまちは魅力的になるという観点である。「綿業会館に住んでみたい、都心の小学校に住んでみたい」と、新しい住宅像に思いを馳せる。「住宅を着こなす」という着想も面白い。
 第二は、「多様性に富んだ都市の魅力」についてである。まちには履歴があり、それがまちの姿や生業に反映している。それを読み解くことができれば、まちへの関心が一層増大する。そうしたひだ深く、豊かな資源を持った都市が面白い。
 三つ目は、「都市空間の中のすきま」への着目である。ロストスペースとでも呼べる不活性な空間が都心に多見されるが、そうした空間は魅力の素材でもある。海外の魅力的な都市では、そうした空間が活き活きとしている。
 第三部は、私たちが試みてきた「魅力アップの実践」について述べた部分である。実践は、見方を変えると、方法の発見であり開発である。
 まず第8章では、都市大阪創生研究会でのワーキング活動の経緯と成果について述べている。研究会では、「住みたいと感じるまち」「連れて行きたいまち」「集客につながる魅力が散りばめられているまち」をいかに形成できるかという観点から、いくつかのケーススタディを重ねてきた。その過程で自ら実行することの大切さを学び、そのチャレンジテーマとして「魅力ある水辺空間づくり」「仮設利用による魅力ある場づくり」「歴史的ストックの魅力的な再生」「ブランド・ステータスの創生」が浮かび上がってきた。
 これらのテーマについて、実際に「ミニ社会実験」として私たちが取り組んだ考え方と実践内容を述べたのが第9章である。提案は、いくら魅力的な提案であっても、絵に描いた餅である。小さくても良いから実践してみる。そこから次の手がかりが得られるという確信があった。
 第10章は、自前のまちの魅力発信の試みである。大掛かりな提案や提言はそれだけでは何の実効性もない。一方で、小さなお店でも、それが魅力的であればまちを変える。魅力を発信することで何かが変わっていくかもしれない。こうして自前の「絵はがきづくり」「フリーペーパーづくり」が始まった。
 第11章は、ミニ社会実験の一つである「リバーカフェ」の試みを通じて、まちづくりの「壁」をいかに克服できるかについて述べている。面白い提案でも実現できないのは、立ちはだかる「壁」が克服できないからである。やり抜こうとする自らの「意識の壁」、それに賛同し支援する人びととの「共鳴の壁」、そして「制度の壁」「資金の壁」などが続く。こうした「壁」を乗り越えるための秘訣は、「公共性が高いこと」「各立場の中に共鳴者がいること」「日頃からのコミュニケーションがあること」である。
 最後の第12章は、まちづくりネットワークは一旦始まると、広がっていく可能性があることを述べている。地域には多様なグループがあり、プラットホームが提供されれば互いに結びつく。それがシナジー効果を持っているがゆえに、まちづくりは楽しくなる。「寄り合いまちづくり」の極意が述べられている。
 ロバータ・グラッツはその著書の中で「まちづくりはアートであって科学ではない」と述べている。ジェーン・ジェイコブスも確か同じようなことを言っていたと思う。まちづくりには、科学的な論理性だけでは対応できない、「暗黙知」のようなものが必要だという考えである。
 取り組んではじめてわかる「まちづくりの真の感触」のようなものが確かにある。本書をとりまとめた私たちは、活動を進めるにつれてこうした「真の感触」を感じ取るようになっていった。本書を読んで、この醍醐味を味わっていただきたい。

鳴海邦碩