『建築士』((社)日本建築士会連合会) 2007.7
近年、昭和レトロを回帰する事業やまちづくりが全国各地で進められている。そういった中で、全国どこにでもある「路地」に注目してまちづくりを行っている地区が数多くある。
本書は24名の執筆者が、「路地」の形成された経緯や、その「路地」を活かすためのまちづくり活動の紹介、その具体的な手法を様々な角度から教示している著書である。
序説では、「路地」の果たしてきた役割や「路地」を見直すための問題提起がされている。
第一部では神楽坂や京都、大阪等の路地を例として取り上げ、「路地」の魅力を述べている。
第二部では、全国で実際に「路地」を活かすための活動を実施している地区を取り上げ、その地域活動によって甦った「路地」が紹介されている。特に、二度の火災に見舞われながらも見事に復興を果たした大阪の法善寺横町のまちづくり活動は印象的である。
「路地」を活かす場合に、本書の中で多くの執筆者が建築基準法の42条、43条の条項との関係を苦慮しているとあるが、第三部では、その解決方法として幾つか手法が紹介されている。また、2004年から発足した「全国路地のまち連絡協議会」(http://www.mmjp.or.jp/jsurp/roji/roji.htm) が、全国路地サミットを毎年開催し、路地をテーマにしたまちづくりの情報発信をしているので、ホームページもご覧頂きたい。
多くの「路地」が失われつつある現在、「路地」を活かして魅力あるまちづくり運動を進めようとしている方々にとっては、この著書はマニュアル的存在として大いに役立つ一冊である。
(米盛司郎)
『地方自治職員研修』(公職研) 2007.4
近代都市計画が否定し続けた「路地」が見直されつつある。ヒューマンスケールにもとづく生活空間を実現し、独特の賑わいや魅力を創出しているからだ。しかし、防災・交通といった解決すべき問題は依然としてあるし、路地空間を守るためにはそのための法制度やしくみの整備が必要だ。本書ではそうした課題に取り組みながら路地の魅力をまちづくりにつなげている各地の事例から、ネックとなる問題への解決手法を提起する。実際に路地に入り込み、観察してみたくなる一冊。
『環境緑化新聞』 2007.2.15
最近、路地がちょっとしたブームになっているようだ。路地や路地裏というのはどこでもなぜか懐かしく魅力的だ。しかし密集市街地では防災面の理由から「細街路拡幅」が推進されていて、路地の減少に拍車をかけているという。
本書は、近代都市計画では存在を否定され、負の遺産とも言われる路地の復権を目指したものである。2005年に東京・神楽坂で開催された全国路地サミットをきっかけに、実際のまちづくりの現場で見られる路地の魅力を伝えたいという思いから実現した。
第1部で背景を、第2部では各地の事例を紹介し、第3部で路地からのまちづくりを支える論理を述べている。そこで示される路地論は、ひいては21世紀の都市空間の方向性を示すものとされている。
防災面等の問題については、耐震補強や行き止まりの解消など物理空間の整備と同時に、路地空間の社会性を活かした人的支援体制の確保という点で特性が活かされている。ヒューマンスケールである路地の再生は、「自助と互助の防災まちづくりの契機」となる。
『Argus-eye』((社)日本建築士事務所協会連合会) 2007.4
近代都市計画が否定してきた路地が、そのヒューマンなスケール故に生活空間として、又賑わいやしつらえの空間として注目されている。本書では、界隈の魅力を保全・再生しつつ、まちづくりに活かしている各地の取り組みを報告。路地の復権を目指し、保全に向けた法制度と、ネックとなる防災・交通問題の解決手法を提起する。取り上げられた実例は神楽坂、谷中、向島、十条、祇園南、空堀、法善寺横丁、飯田、諏訪、大浜、尾道の11ヵ所。やっかいもの扱いをされてきた路地が今、「可能性の宝庫」として復権する。
『PLANNERS』(日本都市計画家協会) 53
路地の魅力の根源には、幼少期の生活体験が関係しているという説があるが本当だろうか?もし本当ならば、路地で遊んだ体験のない現代っ子には路地の魅力がわからないことになる。しかし、大きな街区の一画に路地が入口を開け、未知なる世界へ誘っているのであれば、好奇心からそこに立ち入ってみたくなるのは、健全な人間の衝動ではないか?外からは想像できない世界がそこにあり、この驚きが路地の魅力だろう。これは人間の本能である。言い換えれば、全ての人間は「産道」という路地を通り貫け、向こう側の世界をさ迷っている、迷える子羊なのかもしれない。これはちょっと考えすぎだろうか?
これまで、路地の魅力を歴史や文化論で情緒的に扱った本は多かった。しかしこの本は、「街づくり」の視点で構成されている点で他と異なる。「路地を守る」という実践的な立場から、多様な分野の執筆陣によって、総合的に路地が語られている。歴史的視点・文化的視点はもちろん、その範囲は、防災や交通、都市計画や建築諸制度に及ぶ。これに加えて、神楽坂や祇園南、法善寺横町など、具体的な地域での取り組みが紹介されている。
防災面の理由からこれまで4m未満の道路は、建て替え時に拡幅を余儀なくされてきた。「路地を守る」ためには、この常識を覆さなければならない。このため、本書の展開は必然的に具体的であり、防災の技術面や規制緩和の制度面に及ぶことになる。特に防災面の専門家からの提言は核心であるが、「路地は何時から悪者になったのか」や路地消滅の口実とされる防災面の理由に対して「そこには路地の危険性、あるいは防災性について大きな誤解が存在する。このいわれなき誤解が路地裏文化の破壊をもたらしている」と断言したところから、各論が展開していることは、注目すべき点である。
都市計画の現状から見れば、未だに「街路拡幅論」が主流であり、「路地を守る」流れの歴史は浅い。しかし、本書は現代の日本での、この反流の到達点を十分に示した一冊になっている。
最後にどうしても触れておきたいのが、本書の成り立ちである。編集幹事である今井氏のあとがきにも示されているが、もともと「全国路地サミット」や「全国路地のまち連絡協議会」という路地愛好家・研究者の活動があり、この一連の活動の一環から本書ができている。路地巡りの会やシンポジウムで終わらせているのでは、単なる愛好家の集まりと変わらない。しかし、これらの活動の蓄積を次のステップに繋がる形にまで昇華させた専門家たちの熱意が、次の時代の新しい都市計画のパラダイムを切り開くきっかけになるかもしれない。
「路地は都市に不可欠な存在である」という専門家の信念が、路地に魅力を感じる多くの人達の共感を呼ぶことになれば、面白い時代になるだろう。
(PLANNERS編集長/田島 泰)
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