光の景観まちづくり


はじめに

  日本国内外の都市夜景をつぶさに調査してみると、個性的な表情を持った夜景、たくさんの観光客で賑わう夜景、昼の街並み以上に美しい夜景、がたくさん出来上がっていることがわかる。昼の都市景観は白日の下に等しく照らし出され、それ以上の演出的な見せ方は許されないが、夜の景観はほとんど人工的に創作されている。どこにどのような光を与えるかによって街の表情は一変する。大げさに表現すると、都市の夜は巨大な舞台空間であるとも言える。1日24時間、都市の表情は刻々と変化している。だとすると、21世紀にはそれぞれの街が魅力的な光をまとわねばならない。これまで以上に夜景はその都市の価値評価に直結し、心を尽くした「光のまちづくり」が不可欠になってきたというわけだ。

  2002年に大阪で、志を同じくする多方面の方々が集い「大阪・光のまちづくり企画推進委員会」が発足した。大阪のまちを光で魅力的に創り上げよう、という委員会だ。私も照明計画の専門家の立場からこの委員会に参加し、委員の一人として大阪の夜を徘徊し、光の実験を行い、様々な都市照明デザインの可能性を提案してきた。そこで語られた多くの夢と現実は、少しずつではあるが大阪の街に具体的な新しい光の表情を与える方向で動き出している。

  本書の1章と2章に紹介される様々な街と光の事例は、この委員会の委員の方々が自らの足と眼で調べ上げたものである。奔放な見方ではあるが、自ら体験したものであるのでそれぞれに自負した口調が読み取れる。
  また3章では、この委員会での議論や実施された事業を、特にプロセスに重点をおいて紹介した。大阪での取り組みが、広く光の景観まちづくりを志す方々の一助になることを期待している。
  4章では同委員会の委員として参加していただいた橋爪紳也、宮城俊作の各氏に都市の賑わいの視点や、ランドスケープの視点から原稿をいただいた。私も都市や建築の照明デザインという現場の仕事を通じて、常々課題としている都市照明の手法や光の景観まちづくりの実態を、光と闇という人間本来のあり方に立ち返って紹介させていただいた。光の景観まちづくりは無闇に明るくすることではない。むしろ暗闇や陰影の大切さを伝えたいと思ったからだ。

  ここに紹介される多くのユニークな「光のまちづくり」の例に学びながら、日本各地に素晴らしい夜景が出現していくことを希望している。光は体験の中から生まれる。本書が多くの光の実例を観察するための一助になれば幸いである。

(面出 薫)