中心市街地活性化三法改正とまちづくり


まえがき

 わが国は人口減少社会を迎えた。既に地方での高齢化は急ピッチだが、国全体の高齢化も急進展する。人口減少時代の都市形態をどのように描き、そこに暮らすひとびとの価値観とライフスタイルがどのように変化するのかを見極めなければならない。一方で環境容量が枯渇してきている。それらのことを考えれば、これまでのような拡張主義的な都市づくりから脱却しなければならないことは明らかである。既存の都市資源を有効に活用しながら、環境負荷を軽減する方向で都市構造を再編しなければならない。それが持続可能な都市づくりにつながる。また、21世紀前半に日本社会が対応を求められる急迫の課題でもある。
  今度の中心市街地活性化三法(*)の改正にも、そうした時代認識がある。20世紀後半以降最近までの少なくとも4半世紀の間に、欧米諸国都市で共通して観察されるようになった都市づくりの傾向は、都市規模を限りなく拡散するような開発主義に対する反省である。具体的には車に過度に依存することなく、公共交通機関を活用し、できる限り歩いて暮らせるまちづくりであり、歴史的空間を保存し、緑地空間を再生することであった。大型店の郊外立地についても共通して規制強化に向かっている。その意味でまちづくり関連三法、特に改正都市計画法が中心市街地重視の姿勢を明確に打ち出したことは、欧米諸国と足並みを揃えるものであり、評価に値する。
  編集にあたっては、当該法令を所管する関連省庁の担当者らに法改正の背景、狙い、課題などについて執筆していただいた。改正された条文の解釈、あるいは条文の行間を読み解くのに役立つものと思う。ほかに筆者は地方自治体の行政マン、まちづくりコンサルタント、まちづくりNPOの市民派活動家、ジャーナリスト、そして大学人など広範囲に及ぶ。肩肘張った学術的な論文集とするよりは、実際にまちでなにが起きているのか──まちづくりの成功譚、失敗話を現場発で報告してもらうことを重視したためである。
  先端的な中心市街地活性化の取り組みや条例づくりを豊富に紹介している。当然のこととしてそれらの事例について学問的な意味解釈も記載するように努めた。事例を通して学び、読者のまちづくりに生かしていただきたいというのが編者の願いである。海外の話題も随所に散りばめることによって日本との比較考慮できるように心がけた。
  したがって読者層としては研究者に止まらず、行政職員、まちづくり運動家、商業者、デベロッパー、地方都市商業の再生に関与している地銀や信金などの金融職員、商工業団体職員などを想定している。本書の出版が潤いのある、豊かな都市空間の形成に幾分かでも寄与することができれば編者の喜びとするところである。


2006年7月末 
矢作 弘・瀬田史彦 

 *中心市街地活性化法、改正都市計画法、大規模小売店舗立地法。まちづくり三法とも呼ばれる。