川で実践する 福祉・医療・教育


おわりに

 川と福祉・医療、川と教育への取り組みが市民団体を中心に進められるようになってすでに約十年が経過した。その活動の中心となってきた実践者により報告を行なったものが本書である。
  川と福祉に関しては、当時の建設省河川局と厚生省のメンバーが中心となり、全国の先進的な活動をする人びとの参加を得て「川と福祉の懇談会」を開催し、検討を進めた。その後、懇談会のメンバーを中心に、現場での地道な活動を展開し、川と福祉に配慮した川に関わる各種の基準の改正も行なわれた。
  そして、1999年からは市民団体による川と教育に関わる活動とも連携し、全国の関係者の交流会、全国大会を毎年開催し、情報交換等を進めてきた。最近では、懇談会のメンバーでもある本荘第一病院長の小松寛治先生の取り組みから、川と医療に関しての活動も大きく前進した。川と医療についてのまとまった報告がなされていることが、本書の大きな特徴の一つとなっている。
  一方、行政においても、2002年の学校完全週休二日制への移行、総合学習の実施を前に地域のみんなで子どもを育て、親子でいろいろな体験をできることを目指し全国子どもプランが文部省(当時)により策定された。その一環としても位置づけられた建設省河川局、文部省、環境省の省庁連携による「子どもの水辺再発見プロジェクト」も1999年に始まった。
  その後、この面での活動は大きく前進し、本書でも報告されているように、行政(国土交通省、文部科学省、環境省)も支援する形での子どもの水辺サポートセンターや川に学ぶ体験活動協議会の活動に発展し、全国で市民主導の活動が行なわれるようになった。
  その活動のリード役は、本書の筆者であり「川と子どもの大野プロジェクト」のリーダーである大野重男さん(川に学ぶ体験活動協議会代表理事)や荒関岩雄さん等の市民団体の方々である。
  川と福祉・医療、川と教育の活動は、最終的には、地域づくり、地域の社会システムづくりの一環をなすものである。川を生かした地域づくりの観点から、川と福祉、医療、教育の活動に先進的に取り組む市民団体も除々に増えてきている。小貝川、吉野川下流の新町川、北上川展勝地、グラウンドワーク東海の取り組みなどである。
  本書では、これらの活動をリードしてきた実践者により、川と福祉、医療、教育が複合的に連携した取り組みを報告させていただいた。これから市民主導等で川での福祉、医療、教育に取り組む人びとに、骨太で粗削りな面もあると思われるが、実践の書として参考にしていただければと考えている。前著の『水辺の元気づくり―川で福祉・教育活動を実践する―』(理工図書)も併せて参考にしていただけると幸いである。
  また、本書の執筆者の多くは現場での実践とともに、全国での講演等にも堪能な人が多く、その面でもコンタクトいただくとよい。

 この出版は、毎年の全国交流会、全国大会とも連動した活動の一環として、川での福祉・医療と教育研究会が企画・執筆し、学芸出版社の理解を得て行なったものである。学芸出版社には深く感謝の意を表したい。

2004年8月10日
川での福祉・医療と教育研究会幹事 吉川勝秀