川で実践する 福祉・医療・教育


はじめに

 地方自治体が策定する「地域福祉計画」で、町に流れる「川」を視野に入れた計画は、全国を見渡しても皆無と言っていいだろう。だから福祉と川の結びつきは奇異に感じられるかもしれない。しかし、それぞれの地域には素晴らしい川が流れ、緑と生き物が息づき、潤いある空間になっている。さらに、調査によれば、川へ行くのは高齢者が一番多いとの結果がある。日常的に、土手や川辺は高齢者の散歩道として定着しているのだろう。
  川は昔から、雨や雪の影響を多く受け、私たちの生活を脅かしてきた。一方、水を活かさなければ生活そのものが立ちいかない事実もある。そのため、国は治水や利水といった施策を推進してきた。その結果、私たちの生活空間と川は遠く離れてしまった。
  しかし昨今、川を軸に、地域を見直し私たちの暮らしを見直そうとする動きが活発になってきた。その背景には、子どもたちを取り巻く状況の厳しさや、少子高齢化などの問題が、多くの人の意識を地域に向けさせてきたことが挙げられよう。
  たとえば、雪の深い地域や平地のない山地など、さまざまな地域性があり、また長い間、多様な生活をしてきた高齢者の問題は、その分野だけでは現状を改善することも、問題解決もできない。近所づき合いや、子育ての悩みなど、日常的な問題が山積みしている。
  このような今日的課題を解決するためには、子どもの問題だからと子どもの分野だけで解決をしようとしても限界がある。それは高齢者の分野でも同様だ。
  しからば、だれがどこでどのように関わり、解決に向けていくのかが、私たちのこれからにかかっている。重い課題だが、嘆いて愚痴を言っていても前には進まない。なんとかしなければいけないのなら、楽しく参加して何かをやる。やるなかから気づき、強い心が芽を吹く。芽は生活の中から、地域の中から芽生えてくるのが一番いい。そして、多くの問題や課題は地域で解決することが望ましく、解決の早道になる。その実践の場として川が見直されているのだ。
  1998年から開催している「川での福祉と教育の全国交流会」は、それぞれの分野の垣根を取っ払って、自由自在に議論してきた。これまでのことに囚われず、勇敢に果敢に取り組んでいる実践活動を紹介し、記録として残し、これから何かを始めようとする方々へ勇気を伝え、次へつなげていこうとする取り組みである。

 本書はそんな活動の中から生まれた。川や教育や福祉や医療のさまざまな分野で活発に活動している方々をナビゲーターとして、読者の皆様を川辺へご案内する。ポニーの背に揺られながら、ゆうゆうと流れる川の風景を友とし、水気を含んださわやかで素晴らしい川風を体感していただきたい。
  多くの皆様の関心と参加を切に願い、また、本書の発行にご協力いただきました執筆者、編集者、出版社の方々に深謝いたします。

2004年8月10日
NPO法人ケア・センターやわらぎ 石川治江