環境と都市のデザイン


書 評
『新建築』((株)新建築社)2005. 1
  昨今、景観デザインにおいて市民参加の観点からワークショップがさかんである。一方で専門家には「市民参加」というシステムへの不信感も存在する。本書は景観論と市民参加を軸に、研究、行政、そしてNPOの代表者など6名が各々の視点から都市デザインの質について論じる。各人の論が章として構成されており読みやすい。繰り返し問われる「都市デザインにおける確からしさとは何か」、その答えも「まちのなかにある」とすれば、多数の実例を含んだ本書はその実情を知る一助となるだろう。
(TKB)

『庭』(龍居庭園研究所) No. 162
  近年、環境や景観について、人々の意義はずいぶん高まってきているように思われる。行政やデザイナーだけでなく、市民参加も盛んになり、景観法も施行されようとしている。しかし、歴史的建造物群に倣って、単に形や色彩を制限すればよいのか、緑を増やせば事足りるのか、その「質」に関しては、問い直すべき点もありそうだ。景観論と市民参加の現場から、「まちづくりの新しい評価軸」を探ったのがこの本。
  6名の研究者と実務者が、双方の立場から、「不易」という大局と「流行」という柔軟性をキーワードに、「環境デザインにおける参加の効果」「都市におけるインフラストラクチャーの役割」「生活システムを考慮した空間保全」「市民とデザイナー、共同の可能性」「デザインの新しい次元」など、多角的な視点から見たまちづくりを語っている。
  いったい魅力のある街に絶対的な基準はあるのだろうか。一つ納得したのは、「建築という実体そのもの」よりも、「住まい手、使い手」が主体になるということである。その意味で住民参加のまちづくりは、課題山積ながら、意義のあることのように思われる。筆者もある機会から、住民参加のまちづくりの難しさを実感したので、この報告を興味深く読んだ。必要なのは、専門家と市民との「一筋縄ではいかないやりとり」のプロセス。今、都市デザイナーに求められるのは、一方的にデザインを提供することではなく、市民の想像力を高めるための忍耐である。空間デザインの新しい時代が予感される。