中心市街地再生と持続可能なまちづくり

はじめに

 近年、地方都市の中心市街地衰退が大きな問題として注目され、1998年7月の中心市街地活性化法施行以降、多くの都市で活性化基本計画を立案している。この問題に対しては、@昼間人口までもが減少している、A農村地域への郊外化、沿道土地利用の進展と密接である、B地方都市は抱えている問題、都市成立の経緯、産業基盤などの面で多様である、といった点で、大都市圏とは異なる視点で中心市街地問題を検討し、対策を立てる必要がある。しかし、従来の都市計画の法制度・事業制度は大都市問題の解決を主眼としたものがほとんどであり、地方都市に関しては対応していない部分も多々ある。
 中心市街地問題については、中心市街地活性化法施行以降、559市町村576地区(2003年5月現在)が基本計画を立案済である等、問題が切迫している点に関しては多くの人に共通して認識されるようになってはいるが、実際に、個々の都市について的確な実態が把握され、有効な施策を展開できているとは言いかねる。
 また、地方都市は、既成市街地近辺に農村地域を擁しており、市街地拡大・郊外化の問題も抱えている。そして、この問題は中心市街地の衰退と表裏一体の現象である。都市的土地利用と農業的土地利用・自然的土地利用との望ましい関係は、地方都市では特に大きな懸案事項であり、「コンパクトな都市」「環境共生型の都市」といった概念が先行している。「持続的発展が可能な都市」をいかに計画し実現していくかということは、それ自体が地方都市にとっては最大の課題の一つであるとともに、中心市街地問題の解決への展望を考えるときに、欠かせない視点である。つまり、地方都市では中心市街地の衰退が激しいが、従来議論の中心であった中心商店街の振興のみでは再生のストーリーは描き得ず、中心市街地の果たすべき役割を再考すること、高度成長期後期以降の市街地拡大とそれを誘発した制度を振り返ること、の両面から論じることなくして、再生に向けての方向性は見えてこないであろうということである。
 そうした中で、日本建築学会都市計画委員会に、地方都市の問題を扱い地方都市の都市計画を検討する地方都市小委員会が置かれ、継続的な議論を重ねてきた。長年、諸先輩の精力的な研究の蓄積がなされ、様々な研究活動を行ってきたが、近年の話題の中心は中心市街地の問題であった。折しも、建築学会の推薦を受け、2000年、2001年の2カ年にわたり、鹿島学術振興財団から「持続的発展が可能な都市を念頭に置いた地方都市の中心市街地問題に関する比較研究」という研究課題名で、地方都市小委員会の委員を研究メンバーとする助成をいただいていた。この鹿島学術振興財団からの研究助成によって、研究者個々の研究蓄積に関して、知見の共有を図ることが容易となり、議論の深化をみることができた。
 この成果を踏まえて、2002年度建築学会大会時に都市計画部門の研究協議会として「中心市街地再生を見据えた地方都市の持続可能性」を地方都市小委員会が中心となって開催した。そこでは、地方都市小委員会委員を含めた地方都市在住の研究者の方々に、懇意にしておられる自治体の都市計画担当者とペアになっていただき、それぞれが活躍する都市の状況を研究ベースと実務ベースで紹介・議論の展開をいただくという企画をたて、資料集を作成した。本書はこの資料集を叩き台としており、協議会での議論を踏まえて、対象とする都市により多様性を持たせること、研究者と実務者のペアという考え方をより発展させ内容に一貫性を持たせること、持続可能性の観点をより鮮明に示すこと、などの充実を図ったものである。
 こういったことから、中心市街地問題を考えるに際して、単に中心市街地のみに関する記述に留めるのではなく、「持続的発展が可能な都市」を念頭に置くことで、地方都市の問題をより多元的に捉え、その関係をきちんと整理しようとしたのが、本書の構想理由である。
 例えば自治体行政で日夜中心市街地問題に奮闘されている方々にとっては、自分の都市の状況はわかっているが、類似のもしくは異なった性格の都市でどういったことが検討され、実行に移されてきたかという点に関しては、情報収集が大変であるように、個々の地方都市での問題に関する認識は深まっているものの、それを他都市と比較し相対化してみることや、地方都市の普遍性・一般性と個別の都市の特殊性・固有性を分離することが困難であった。そこで本書は、事例という特殊解から、一歩踏み込んだ帰納的一般解である「地方都市型の都市計画」を構築しようとするものであり、それを最終目的として見定めながら、中心市街地問題を多元的な視点で紹介するものである。
 本書は、先に述べた議論に参加していただいた方を中心に進めてきた。まず、総論として地方都市の問題を語るにあたっての基本的かつ共通の視点を、元・前・現の3人の地方都市小委員会主査が呈示する。その後、各論として22都市を取り上げ、地方都市在住の研究者と各都市の行政担当者のペアを原則として執筆者を募り、地方都市研究会として立ち上げた。事例とした都市について研究者と実務者の複眼で紹介している。
 地方都市の都市計画に関して普遍性、一般性を持つ部分をまとめ上げることで、地方都市の実態を示し、一方で、本書で呈示するそれぞれの都市が努力された視点・戦略が、都市計画分野からの中心市街地再生に向けての枠組構築の一助となることを大いに期待したい。
 この本を完成するまでには、多くの方のご助力、助言を得た。中核をなす議論の端緒となる機会を与えてくださった鹿島学術振興財団、そしてそれに推薦してくださった日本建築学会に、まずお礼を申し上げたい。また、建築学会都市計画委員会の諸氏には、研究協議会開催の機会を与えていただくとともに、地方都市小委員会内に閉塞しがちだった議論に対して視野を広げる助言をいただいている。学芸出版社の前田裕資氏には、昨年の建築学会大会以来、企画に賛同いただき、大所高所から、そして微に入り細に入るところまで気を遣っていただき、とかく拡散しがちな内容に一本芯を通すことを心がけていただいた。厚くお礼を申し上げたい。
 最後に、この本の完成間際の胸突き八丁からの大変な所を一手に引き受け、多数の著者をまとめ上げていただいた中木保代さんにお礼を申し上げて、筆を置く。

中出文平