はじめに

 危機に直面した地域のコミュニティや環境の悪化した都市の周辺、衰退する中心市街地などに、必要に迫られて「まちづくり組織」が生まれ、退勢を挽回しようと自律的な活動を展開してきた。それはNPO(ノン・プロフィット・オーガニゼーション)やTMO(タウン・マネジメント・オーガニゼーション)という新しい組織形態を取っているだけでなく、行政区や町内会といった古くからの住民組織や行政内部に育まれた同志的な小集団など、多様な形態をなしている。本書では、このような「まちづくり組織」の形成過程を当事者からの直接のインタビューに基づいて構成すると共に、合意形成の場、共同規範による組織運営、ネットワーク的結合などに着目して、その組織としての特質を浮き彫りにしようと試みた。
 ここでいう「まちづくり」とは、市民が自治的(自律的)な活動の「場」を構築しながら、コミュニティを育成するプロセスを指している。それは地域社会の骨格を形成しようとする試みでもある。
 初めに取材対象としたのは、中山間地の小さな自治体に現れた「まちづくり組織」である。そこは過疎や高齢化など、コミュニティ存続の危機に直面していた。これらの自治体は、「行政区」と呼ばれる小さなコミュニティの集合体として成立している。このコミュニティを自治的な組織に改革して住民合意の「場」を形成し、地域の力を結集することによって、近隣社会が抱える環境、福祉、高齢者対策などの諸問題に対応可能となる。
 都市部の「まちづくりNPO」など、新しいタイプのまちづくり組織を優先しなかったのは、まちづくりが地域社会に浸透するには、「行政区」のような既存の住民組織を自治的な合意形成の場へと内部から変えて行く必要があるからだ。藤沢町、小国町、宮原町などの小規模自治体では、住民が立案したミニ計画を合議によって全体計画へ昇華させる協働体制を確立した。こうした地域では、住民組織だけでなく、行政組織も古い体質から脱却し、一体の自治組織となって課題に取り組んでいる。
 ところで、都市部でも中山間地の「行政区」と同様な試みが行われていた。それは町内会組織の改革である。神戸市真野地区では「町内会一元化構造」と呼ばれる閉鎖的な組織構造を、外部に開かれたネットワーク型の組織に変革した。ここでは住民大会が開催され、住民自治の原則が確立されただけでなく、社会福祉協議会や民生委員のような生活支援の組織が連結され、公害、福祉、まちづくりなど地域の様々な課題について協働で対処できる態勢が構築された。
 市民的な合意形成の「場」を実現し、地域組織のネットワーク化に成功すれば、地域は自立する。都市であれ農村であれ、自治的なコミュニティを形成するために、旧来の住民組織を「まちづくり組織」として再生することも可能なのである。
 本書の後半では、現代の「まちづくり組織」が直面する問題点を探るため、まちを継続的に開発する仕組みとしての「まちづくり会社」に着目した。現在、様々なまちづくり会社が各地で設立されており、今後、地域の経営主体として重要性が増すことになろう。とくに、中心市街地活性化法が成立して以来、そこに盛り込まれたまちづくり組織TMOとして特定会社(街づくり会社)が数多く認証されている。この制度は、まちづくり組織の法的環境を整え、様々な公的支援策を可能とした点で評価できる。しかし、従来の行政的枠組みを維持したままであるため、他の市民組織との連携が不十分で、本来の「まちづくり組織」とはなっていない。
 「まちづくり組織」は地域の経営主体として、今後、大きな役割が期待される。地域経営とは、市民が主体的に地域社会に関与するための「まちづくり組織」を形成・維持し、地域に存在する様々な資源の最適化を図ることによって、社会的サービスを享受できるようにする公益活動である。そして、この公益活動をになう「まちづくり組織」の中心には、多様な地域活動を統括する「経営者」が必要である。本書では、この経営者像を十分に紹介できなかった。また、紙数の関係で、今日数多く誕生している「まちづくりNPO」についても全く触れていない。これらのやり残した課題については、次の機会を待ちたいと思う。