はじめに

私たちのめざすグリーンツーリズム




「三つの視点」
 本書は、京都府内のグリーンツーリズムがめざしてきた内容と方向を明らかにする目的で編まれた。特に「日本型グリーンツーリズム」を考えるうえで、塾の活動過程において「京都型」ともいえる視点が形成されてきた経過などを紹介し、そのすすめ方の詳細をまとめている。
 京都型グリーンツーリズムは「村づくり運動」「都市と農村の交流」「農村住民のビジネスとしての地域経営」の三つの視点を基礎としている。すなわち、人と地域の「元気おこし」を通じて、そこから生じるさまざまな「結びつき」を「地域経営」に発展させようとするものである。
 こうした京都型グリーンツーリズムの優れた典型事例のひとつとして、京都府美山(みやま町をあげることができる。美山町では1970年頃(昭和40年代)までに取り組んできた「町外に開かれた農村の条件づくり」を経て、1975年頃(50年代)以降に活発な村づくり運動を展開した。1989年頃(平成年代)から開始された行政主導型グリーンツーリズムはこうした旺盛な村づくり運動と結びつき、やがて住民主導型のビジネス化へとすすんだ。


村づくり運動から交流・ビジネス化へ
 美山町は1978(昭和53)年以降、「住みよいふるさとづくり」運動を展開して、全戸への意向調査と延べ174回の集落座談会を開催した。この話し合いの中から、1980(昭和55)年には町内58集落すべてに農事組合と造林組合が結成された。この動きはさらに圃場整備事業、集落センターなどの農村生活環境整備事業、農薬や化学肥料の投入を削減した環境保全型農業の推進、集落営農へと発展していく。
 同時に、集落ごとの生活改善運動が取り組まれ、女性や高齢者がグループ化され、農産物加工・販売、野菜・花きの無人直売所、朝市などが次々と開始される。この頃、北集落の茅屋根保存組合が結成され、農産物の産直活動もはじまる。四集落の農家グループと消費者グループによるコンテナ産直(1981年〜)や美山町農協と京都生協の産直(1983年〜)を皮切りに、多様な産直を通じた都市と農村の交流が発展してきた。
 同町における集落営農の発展は、女性や高齢者による多品目小量生産を背景に、環境保全型農業、産直、朝市、農産物加工・直売といった農産物の高付加価値化へと向かっていった。すなわち、農業生産の延長として農村住民のビジネス化が開始されていったのである。
 1989(平成元)年に町営の自然文化村がオープンしてグリーンツーリズムがはじまるが、村づくり運動に基づく交流や住民のビジネス化の萌芽があったことによって美山町はその取り組みをいちはやく行政主導型から民間主導型に転換できた。しかも地区によって、ある場合は村づくりの方向をグリーンツーリズム施設の経営へとすすめ、他の地区では原生林ツアーや青空市などのソフト面の交流活動に転換するなど、村づくりの個性と到達点に応じて、さまざまな交流とビジネス化がすすめられた。民間主導型のグリーンツーリズムを展開するために、従来の村づくり運動のステップアップが重要な役割を果たしたのである。


推進主体と「ふるさと塾」
 京都型グリーンツーリズムは、三つの視点のうち、とりわけ「村づくり運動」を重視している。
 村づくり運動は、住民自らによる生涯学習活動と十分な意見交流を基本とするものである。ここにグリーンツーリズム推進のための五つの学習課題を示した。村づくり運動を通じて、人づくりと地域アイデンティティの確立を図り、住民のエネルギーを蓄積することが、京都型グリーンツーリズムの基本的条件となる。
 村づくり運動は、これまで農林漁業関係の基盤整備や集落営農の確立、地域農場づくり、農村環境整備などの形で展開してくる。京都型グリーンツーリズムは、こうした村づくり運動を新たな視点から捉え直し、都市と農村の交流及び農村住民のビジネス化に結び付けようとするものである。
 京都型グリーンツーリズムの推進主体は4つある。なかでもとりわけ重要な主体となるものとして、市町村の「ふるさと塾」による村づくりと交流の活動が取り組まれてきた。市町村塾の活動が、農村住民による交流とビジネスへの取り組みを誘導することにより、行政支援の効果が有効に発現できる。その過程で、都市型の応援団も生まれ、それらの交流と支援が個性的なグリーンツーリズムの条件を形成するのである。
 本書ではこうした視点から、村づくり運動を通じて普通の農村のあるがままの資源(自然、農林漁業、景観、文化など)を活用して、グリーンツーリズムを推進する手法を解説している。


本書の構成
 本書は大きく、二部から構成されている。
 まず、第T部「日本のグリーンツーリズム」では、わが国におけるグリーンツーリズムのあるべき姿をわかりやすく解説している。そのうち1章では農村地域政策としての日本型グリーンツーリズムの考え方と戦略について、わが国とイギリスの事例を参照しながら明らかにしている。2章では、日本型グリーンツーリズムおよび京都におけるグリーンツーリズムの推進方向を、3章では、グリーンツーリズム資源の保全や都市住民への対応方向を明らかにしている。
 次に、第U部「グリーンツーリズムのすすめ方」では、その具体的推進方策について解説している。そのうち、4章では、特に村づくり運動による地域アイデンティティの確立と都市農村交流のすすめ方について論述している。また5章では、グリーンツーリズムによる地域基盤産業としての農林漁業の振興方策を解明している。6章では、グリーンツーリズム・ビジネスの具体的なすすめ方を示している。
 また、第T部と第U部の間に、近畿と京都府におけるグリーンツーリズムの事例について、いずれも実践の現場から報告していただいた。推進のためのヒントとして参考にしていただきたい。
〈文:宮崎猛/京都府立大学教授〉


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