ガラス建築
意匠と機能の知識

はじめに

 1960年代イギリスの板ガラスメーカPilkington社によって完全に歪みのないフロート板ガラスが製造される。このガラスの製造技術は20世紀最大の快挙であり、建築ガラス、車のガラスなどとして世界中に拡大し、今日ではガラス生産量のほとんどがフロートガラスである。
 建築分野でガラスが本格的に使用され始めたのは1980年代頃からである。当初は建物外壁や屋根部分などの外装材としてガラスを使用したものがガラス建築の始まりであった。しかし今日では室内の間仕切り、階段や手すり、床、天井の仕上げ材などとして、外装材から内装材にまでガラスが使われる時代を迎えている。これ以外にエレベータシャフトを囲う防火性のある透明ガラスをはじめとして、建物屋外通路のよう壁や噴水、建物外壁に取り付けられたLED(Light Emitting Diode:電気を流すと発光する半導体の一種)による省エネルギーな照明やディスプレーを太陽放射や風雨から守る表面カバーとして使用するなど、あらゆる場所でガラスが使われ始めている。
 本書は、ガラスとサッシの構造と工法のディテール、設備のシステムと装置のディテールや省エネルギー技術などがわかり、ガラス建築の意匠と機能の知識が得られる内容を目指した。
 建物の壁や天井・屋根などの外皮に用いるガラスは、外部景観がそのまま見える、無色透明で空気のような存在であるガラスが良いとされている。室内の間仕切りやエレベータシャフトの隔壁なども同じことが言える。本書では、外部空間と内部空間が1つの空間としてつながり、自然採光や太陽放射など光環境や熱環境の有効利用が可能で、居住快適性に優れた建物を「ガラス建築」とした。
 私たちのガラス建築WGでは、2004年に「ガラスの建築学」を刊行したが、この本はガラスの発見から、計画・設計、施工、運用、ガラスのリサイクルまでを時系列に沿ってまとめた書籍であった。このような形式で発行された例が非常に少ないためか、多くの方々に興味を持っていただいた。
 そこで、外装材から内装材、ディスプレーなどへと年々急速に成長し続けるガラス建築の新しい技術をまとめるため、建築学会内に新しく「ガラス建築情報WG」を作り活動を開始した。
 本書の構成を下記の通りとした。
 1章では、「ガラス開口部のつくりかた」とし、ガラス窓の発達史、ガラスと窓やサッシのディテールと工法、ガラス構法と設備や構造設計上の留意点などについてまとめた。
 2章では、「ガラスと外装」として、外壁や屋根部分などに用いられるガラスと外装のディテールについて実施例とその特徴についてまとめた。
 3章では「ガラスと内装」として、間仕切り、手すりなどのディテール等の実施例とその特徴について示した。
 4章では、「ガラス建築の各種技術」として、ガラスと設備の機能としてのディテールがわかること、明るく熱負荷の少ない省エネルギーなガラス建築であること、色々あるガラスを熱環境や光環境をインフラとして系統的に整理し、わかりやすい表現と解説を加えた。
 延べ面積3,000u以上の建物は、省エネルギー計算が必要になるが、新築する5,000u以下の建物を対象とした省エネルギー簡易計算法の計算式も例題を掲げ、意匠・計画の設計者や設備を専門とする若い人達でも計算ができるように解説及び例題を加えた。
  本書全体を通して言えることは、建築計画・意匠、構造、設備を含めたガラス建築のディテールがわかるようにまとめたことである。
 ガラス建築の省エネルギー計画では、建物規模と外皮のガラス面積によって、インテリア部分とペリメータ部分の境界面を断熱構造にすることが必要な場合があるので、建築設備システムとインテリア、ペリメータ部分の境界層の断熱工法についてもトピックス的に解説した。

 この委員会では、最初はガラス建築に関する最新のデータの収集およびデータベース化、解析などを行った。出版にあたって企画刊行委員会に移行したが、ガラス建築情報WGで調査した事項を一冊の新刊書としてまとめ、読者の方々にガラス建築の意匠と機能がわかる本を刊行する。
 本書の出版にあたり膨大な実施データの収集および執筆の担当をいただきました我が国を代表する執筆者の方々、学芸出版社編集部の越智和子氏ほか、お世話になりました多数の方々のご協力によりこの書は出来上がりました。ここに記して深甚の謝意を表します。
  
日本建築学会環境工学委員会        
 建築設備運営委員会ガラス建築情報WG
 企画刊行運営委員会ガラス建築小委員会
 主査 佐野武仁