色彩の手帳 建築・都市の色を考える100のヒント


あとがき

100のヒント、いかがでしたか。「色を使って」みたくなったり、「色を探しに」出かけたくなったりしていただけたら、それだけでもう、大変嬉しく思います。

私は学生時代からのアルバイトも含め、約30年、色彩を扱う仕事をしてきましたが、「はじめに」にも書きましたように、さまざまな環境で仕事をするうち、年々私自身が色を選ぶ・色を決めることよりも、選定の際の考え方や根拠、そしてそれがどのような効果や影響をもたらすのかということを、関係者間で(適切に)共有することが重要なのではないか、と考えるようになりました。なぜその色なのか・その色でなければならないのか。色が単独で存在することはなく、周囲や背景にある色との「関係性によって見え方が決まる」ということを意識すれば、対象としての色の評価や印象よりも「色と色の間で起きていること」が見えてくるはずだ、と考えてきました。

対象とは時に厄介なものです。恋愛対象、に置き換えれば、夢中な時は日夜その人のことばかり考えてしまうことが想像できます。けれども、対象であるその人との「関係」を想うとき、そこには自分と相手との距離感や間合い、会話の密度など目に見えない空間・時間が存在し、それが蓄積され溶け合うことで、二人の間に「関係性」がつくられていく、と例えることができます。

相性の良し悪しもありますから、すべてが関係性の見極めによってうまくいく、とはもちろん限りません。それでも私は、「何かと何か(色と色・人と人・人とモノ…等々)の間で起きていること」をじっくり・丁寧に・しつこく観察することで、そこに起きている現象性や何かと何かが影響しあう状況を見続けていきたいと思っています(ああ、こんな例えで伝わるのかな…)。

本書の執筆にあたり、日々の業務に追われる中、大変多くの友人・知人に励まされ、背中を押していただきました。この場を借りて、ご協力いただいた皆さまに心よりお礼を申し上げます。中でも、出版社からの書籍化の話をご紹介してくださったEAUの田邊裕之さん、そして学芸出版社編集担当の神谷彬大さんには、本書の企画段階から大変熱心にご助言をいただき、順序や頁ごとの関連に奥行きと厚みが生まれました。このお二人のご尽力がなければ、本書を書き上げることはできなかったと思っています。本当にありがとうございました。また、多様なテキストや写真・図版をわかりやすく・美しく整えてくださったデザイナーの伊藤祐基さんにとっては、本書が初の書籍デザインとなります。『色彩の手帳』でデビューを果たしていただけることもまた、大変嬉しい限りです。

書籍化のお話をいただいてから約2年が経過してしまいましたが、こうして100のヒントとして、私の経験や体験を多くの方に伝えることができますこと、心よりありがたく、また嬉しく思います。学術的な正しさ、というよりは「より適切に」意味が伝わるよう言葉を選び、何度も書き直した項目も少なくありません。

そして読まれる方の経験や知識によっては、異なる解釈や評価があって然るべき、と考えています。私はこれから本書を携え、ぜひ皆さんの多様な解釈に触れてみたいと考えています。色彩・配色がつくり出す効果や影響について、そしてそれらがつくり出す魅力あるまちなみについて、ともに考え、実践して参りましょう。

2019年8月吉日
色彩計画家 加藤幸枝