公共R不動産のプロジェクトスタディ
公民連携のしくみとデザイン




おわりに

 公共R不動産を運営していると、日本中の自治体や企業からさまざまなタイプの相談がある。そしてその相談の内容やレベルは激しくばらついている。
 「この物件を掲載してください」という素直なものから、「サウンディングを一緒にやってほしい」「公募条件を一緒に構築してほしい」とか、なかには「あまりにも多くの公共施設が余っているので、どこから手をつけたらいいでしょうか」というものまである。要するに、公共空間の流通には複雑な手続きと、承認プロセス、コンセンサスの構築が不可欠なのだ。
 主に住宅やオフィスを取り扱う東京R 不動産などは、民間と民間の不動産仲介なので構造は極めてシンプル。物件を売りたい/貸したい人と、買いたい/借りたい人をマッチングするだけでよい。最初、公共R 不動産を始めた時は、同じように空いている公共空間を貸したい行政と、それを活用したい民間とをマッチングすればいいと思っていた。しかし始まってみれば、税金で整備されている公共空間を扱うのはそんなに単純なものではなかった。そんなことも知らないで始めたのか、と言われてしまいそうだが、その面倒を知らなかったからこそ始めることができたとも言える。
 さらに、数多くの自治体と仕事をするなかで、日本の公共空間がなかなか流通しない理由の一つは、そのプロセスが複雑なのと、典型的な手続きのフローが確立していないことだとわかってきた。
 本書は、国内外の先進事例を題材に、そうした複雑なプロセスをなるべくわかりやすく解説し、こうすればもっとスムーズになるというアイデアも提案している。新しい公共空間の使い方を発見するヒント集として本書を活用してほしい。
2018年6月
馬場正尊