不動産リノベーションの企画術




はじめに

 日本でリノベーションが広がり始め、20年は経ったでしょうか。僕は1998年にリノベーションを事業化しました。当時、国内の建築不動産業界ではリノベーションを専業にする会社を他に見つけられなかったので、かなり早かったんだと思います。当初は流行に敏感な30代の人たちを中心に中古住宅、特にマンションをリノベーションして暮らすライフスタイルが流行り、その後は賃貸マンションのリノベーションや、リノベーション済み住宅の販売など、リノベーションが不動産オーナーやデベロッパーへと伝播、普及していきました。
 いまやリノベーションは、廃校が決まった地域の小学校など公共施設や公共空間の再生にまで広がり、リノベーションという言葉が、単体建物の再生手法というよりも、街づくりにまで拡張できる「都市再生の切り札」のようになってきています。以前なら既存の建物をさっさと解体して新たな土地活用を考えれば良かったんでしょうが、安易な新築や再開発では、持続可能な成功はない時代だと人々は気付いています。
 だからといって、なんでもかんでもリノベーションすれば成功するわけでもありません。人口減少が続くのに新築住宅が大量に供給されるため、2040年には空き家率が43%にも上ると予測されています(2013年時点では13.5%)。これから先は、その他多くの建物に埋没しない「個性」が問われる時代なのです。特に昨今のリノベーションでは、従前の用途から別の種類の建物に転用(コンバージョン)するプロジェクトなど、今まで以上に知恵と技術が求められるケースが増えてきています。
 本書では、小規模な賃貸戸建のリノベーションから、マンション、オフィスビルやホテルの再生まで、実例を元に「不動産リノベーション」における一連の流れを、実際のプロセスに沿って解説していきます。

  1章 見極め術 ──不動産の魅力・価値を知る
  2章 商品企画術 ──誰にめがけてつくるかで9割が決まる
  3章 設計術 ──デザインにもテーマを一貫させる
  4章 集客術 ──ネーミングと写真が決定率を左右する

 そして、このような方を読者として念頭においています。

 ・先代が建てたビルやアパートを引き継いだ不動産オーナーさん
 ・企業が所有する不動産活用を任された総務部などの担当者さん
 ・新築は分かるが、ストック活用は初めてというデベロッパーの企画マン
 ・設計は分かるが、企画や集客など一連の流れを知りたい建築士

 僕たちが知る「不動産リノベーション」の実務を包み隠さず、そして正直に書き進めたいと思います。ご自身のプロジェクトで何か一つでも「参考になった、応用できたよ」、最後にそう言ってもらえたなら光栄です。しばらくの間、お付き合いください。

2018年8月
アートアンドクラフト代表 中谷ノボル