団地図解

地形・造成・ランドスケープ・住棟・間取りから読み解く設計思考




ぼくらはなぜ「団地」を目指すのか?



 建築・都市計画分野で「団地」は近年、“ 少子高齢化が進む住宅地”の側面ばかりが過大に語られ、まちづくりやリノベーションの介入などでこうした課題の解決が試みられています。でも団地には山積する課題しかないのでしょうか? ぼくらはそうは思いません。「団地」には、まだまだ体験・経験し熟考すべき価値があると考えています。
 実際ぼくらの経験では、むしろ一般の人たちのほうが団地の良さに気がつき始めています。予備知識がない若い建築学生や、物件候補として下見に訪れた多くのクライアントたちが、「あぁいいねぇ」と言います。しかし、建築・ランドスケープ業界の人たち、特に団地を「ネガティブな住空間、都市計画である」と専門教育で習った世代は冷ややかです。「今どき団地?」「レトロ趣味?」……いや、そうじゃないのです。だからこそ、一般の人たちが気づいた団地の“良さ”を、ぼくらが建築やランドスケープ、計画・設計手法の側面から、きちんと言葉で語りたい、そう思って本書をまとめました。




団地の本当の魅力とは?



 本書で取り上げる団地の“良さ”は、文学・漫画・アニメなどのサブカルチャーにも浸出するいわゆる「失われゆく団地への郷愁」とは一味違います。 そもそも、団地の良さとはなんでしょう? ぼくらが団地を歩くとき、最初は「あ、懐かしい」とか「なんかいいかも」とか、「団地の空間そのままの良さ」をなんとなく感じているのです。でもそれをそもそも感じたことのない人に共感してもらうのは簡単ではありません。ただ写真や図面を見るだけではもの足りないし、ディテールを取り上げるのも、部分にとらわれすぎて全体を見誤ってしまいます。ありのままの「団地」に真正面から取り組みたい! そのために、まず団地を図解・読解することにしました。作業しながら、どうやら団地の魅力は造成とかランドスケープとか、住棟配置とか建築と、分野ごとに分けては語りきれないことに、言い換えれば、「地形→造成→配置→住棟→間取り」の各分野間の《つながり》に団地ならではの魅力があることに気づきはじめました。団地の《つながり》はどうやって生み出されたのか? その視点から読み解きを進めつつ、その過程や意図、思考をヒアリングなどで裏付けていきながら、この本は生まれました。




一人称で語りたい!



 1章では、2団地で「まち歩き」をします。後の章で語られていく様々な《つながり》のヒントやインデックスが散りばめられています。2章はやや固めの「団地解説」です。3章は7団地を「地形→造成→配置→住棟→間取り」の連続性、つまり《つながり》を意識して図解します。この章は1章の解題でもあります。4章では、敷地や技術、経済性など様々な制約のなかで試行錯誤し、団地を計画・設計された方からの生の声をお聞きしています。この本のもう一つのキーワードは「団地係」です。団地係の方々が試行錯誤された設計過程は、中ほどに綴じこまれた2枚の長大折図、日本住宅公団関西支社「団地設計思想 昭和30→43」を見て感じてください。

・限られた敷地の中で土地の特徴を読みつつ、

・共通の設計ルールの制約のもと、それを工夫して解きほぐし、

・新しい生活空間の「快適さ」をつないだ、

 ぼくらが良いと思う“団地像”がつくられていた時代の空気を堪能してもらえれば幸いです。

 当時の創意工夫は、現代の空間計画や建築・ランドスケープ設計にも多くの示唆に富んでいます。調査研究といった“他人ごと”としての冷めた目線ではなく、かといって自分のなかで完結してしまうのでもない。“ 自分のこと”としてこれらの計画設計への示唆を見出したいし、見出してほしい。これが、本書をまとめた“一人称”のぼくらから、読者の皆さんへ伝えたいことです。





2017年8月吉日

篠沢健太・吉永健一