リノベーションの新潮流
レガシー・レジェンド・ストーリー

はしがき


 20世紀末以降世界中で、急速にさまざまな分野で従来の価値観が変革を余儀なくされ、まちづくりの方法論もまた劇的な変化を遂げつつある。この状況に危機感を抱いた私は鹿児島大学に1997年赴任して、国の科学研究費や地元財団法人の補助のもと10年間世界を回りつつ調査を続け、その成果を『まちづくりの新潮流』と『地域づくりの新潮流』という2冊の書物にまとめて発表した。これらは幸い好評で、版を重ねつつ中国や韓国においても翻訳され、教科書としても使われている。その後、大学を定年退職してからは、幅広い人材に呼びかけて建築・まちづくり・不動産を総合的に研究するグループとして、2010年に一般社団法人HEAD研究会という組織を立ち上げ、活動を続けてきた。この研究会は、タスクフォースという分科会に分かれて研究者・実務者・学生たちがテーマを定めて活発に議論をたたかわせ、公開シンポジウムやセミナーを開催してきた。法人会員にはわが国を代表する大企業から意欲的な中小企業までが名を連ね、次の時代のビジネスのあり方も議論している。一方行政機関とも密接な意見交換を行い広く社会に貢献してきた。とりわけ活発な活動を見せているのが、社会に積み上がった膨大な社会ストックの活用を目指すリノベーション・タスクフォースで、この活動のなかからリノベーションにより疲弊する地域を再生する手法をシャレット方式で学べるリノベーション・スクールがスピンアウトして、全国から招請が絶えない状況になっている。

 そのような活動のなかで、HEAD研究会では、2013年春にリノベーション・タスクフォースと不動産管理タスクフォースの発案で、ストック活用の先進国であるドイツとオランダをリノベーション視察先と定めてツアーを行い、帰国後その成果の発表セミナーを公開で開催したところ、大きな反響呼ぶことになった。このツアーには、関連する分野の研究・実務のエキスパートに学生を交えて20名以上の多彩なメンバーが参加し、現地で活躍されている方々の協力もあって、多大な成果を上げることができたのである。本書はそのことを知った学芸出版社の前田裕資氏の呼びかけによりまとめられたものである。私自身はすでに述べたとおり世界各地の調査を長年行ってきたのであるが、本書にはできるだけ最新の情報を盛り込みたく、多くの都市を2014年中に再訪し、現地在住の人々とともに調査してきた。そのなかでイギリス在住の建築家漆原弘氏は、私の主宰する設計事務所出身であるが、その後イギリスのヨーク大学に留学し、まちづくりの権威イアン・コフーン教授の指導のもとで博士号を獲得している。とりわけ公営住宅などのコンバージョンに詳しく、私の研究室の博士課程の学生にもアドバイスをもらってきたので共著者になってもらった。

 リノベーションは小さな住宅改装からまちづくりにまでつながる広範な分野に適用される用語であるが、本書は基本的にまちづくりスケールのリノベーションを扱い、対象は類書との重複を避けて海外に限定した。

 本書は前掲2書と同様、リノベーションの最新例を見て歩く旅のガイドブックになることを意図しているので、ぜひリノベーション街歩きの参考に供していただきたい。また、巻末に参照できるホームページのアドレスをできるだけ所収したので、出かける際は最新情報を確認してほしい。

松永安光