ようこそ ようこそ はじまりのデザイン


はじめに


grafは何をしている会社ですか?
いろんな人からよく聞かれる質問だ。僕らの運営しているショップは自社工場で製造するオリジナルデザイン家具の販売をしているので家具屋という位置づけにはなるが、もちろんそれだけではない。オリジナルプロダクトのほかに作家のつくる作品や雑貨も取り扱っているけれども、セレクトショップという呼び方には違和感がある。プロダクト、グラフィック、内装設計などのデザインワークも手がけるが、デザイン会社と括るのはいまいちしっくりこないし、アーティストと共に展覧会を開催したり、ときには自らがパフォーマンスに参加したりもするがアーティスト集団というわけでもない。

主な業務は、家具の製造、そして販売、内装設計、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、飲食店の運営、食や音楽、アートをはじめとするイベントの企画など。さまざまな手法を使って「暮らし」にまつわるあらゆる事柄に取り組んでいる。これらすべての業種を扱う会社ということを一言で説明する言葉として、いつからかクリエイティブユニットという呼び方をするようになった。異なる専門分野が集まって物事を協働しながら形にしていくこの考え方はgrafの活動の原点でもある。生活というものがひとつの要素だけでは成り立たないことを考えれば「暮らし」を提案する方法としては一見複雑かもしれないが、愚直で理に適った方法だと思っている。

業種はさまざまだが、それらは「ものづくり」という視点から「暮らしを豊かにする」ことを目指している。豊かな暮らしをつくるために必要な「価値」という感覚的なことをどのようにして表現していくか。僕らは多岐にわたる活動を通して日々その方法を模索している。社内の各専門分野同士だけではなく、そのつながりを外へと広げながら活動を展開していることもそういった欲求の現れだ。生活に必要不可欠な要素を各頂点とした多角形が「暮らし」を可視化するグラフのようなものだとすれば、grafはその形を自由に変化させることで組織という枠組みをつくる。ここに「自分たちで時代を測る」という信念のもとに名づけた「graf」という組織の輪郭を見ることができるのではないだろうか。

「暮らし」や「豊かさ」について提案することは、昨今特にめずらしいことではない。しかし本書をお読みいただければ、僕らが目指すそれが「〜的」や「〜風」といったライフスタイルを提案することではないことがおわかりいただけると思う。自分たちの感覚に対する素直さを忘れず、さまざまなことに付随する条件や要求などの問題を受け容れ、活動を通じて出会う人たちと共に解決しながら、新しい世界につながるはじまりを、ものづくりやデザインをすることの延長線上に見据えていたい。
「ようこそ!」未だ知らぬこれからのすべてに対して、僕らはこの言葉を胸に今日も活動を続けている。

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