欠陥住宅事件 ここが危ない! 事例と教訓


はしがき


 平成7年1月17日、震度7の阪神・淡路大震災が発生し、6,400人を超える人命が奪われた。死亡者の9割近くは倒壊による圧死である。倒壊した建物は瓦礫と化し、倒壊原因が究明されることなく廃棄処分された。
 私は震災直後、被災建物の安全診断、復旧等の依頼を受け、震災現場に駆け付けた。半壊した建物の被災調査から、構造に欠陥がある建物が壊れるべくして壊れたと確信した。
 私の建築士としての業務は阪神・淡路大震災後、一変した。平成8年に欠陥住宅の相談窓口であり、欠陥住宅の撲滅を願う欠陥住宅被害全国連絡協議会が神戸で設立されて以来16年間、建築士の業務として欠陥住宅事件に関与してきた。今日までに作成した欠陥住宅事件の鑑定書、調査報告書、意見書は700件を超える。
 私は様々な欠陥住宅事件から多くの教訓を得た。500件を超えた頃から、欠陥住宅の講師依頼を受けることが多くなり、欠陥住宅の事例と教訓をまとめる必要性を自覚するようになった。
 平成23年3月11日、東日本大震災が発生し、死者・行方不明者は18,649人(平成24年10月24日警察庁発表)である。震災後の5月の連休に、被害が大きい石巻市に行った。津波による沿岸部の絶叫と死の空気感に、今も包まれている。
 東日本大震災は津波による被害が甚大なあまり、地震による建物被害がクローズアップされていない。しかし、東日本大震災では多くの建物が地震により損壊した。その事実が、欠陥住宅の事例と教訓をまとめることを後押しした。

 本書は以下のように編集した。
 1章は、欠陥住宅事件における建築士の役割について記述した。
 2章は、阪神・淡路大震災後、中間検査制度、指定確認検査機関制度等の建築基準法の改正、住宅の品質確保の促進等に関する法律、建築士法の改正、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律等の建築関係法令が整備されたが、これらの法令を概観し、欠陥住宅に関連する法令整備の到達点を考察した。
 3章は、建築関係法令整備後の建築瑕疵損害賠償請求事件の動向を概観した。
 4章は、私が関与した欠陥住宅事件の50事例と教訓を紹介した。住宅の欠陥事例は、設計の欠陥、敷地の欠陥、基礎の欠陥、構造の欠陥、耐火性能の欠陥等多岐にわたるが、事件の教訓が欠陥住宅の防止に生かされることを期待する。
 5章は、私が関与した欠陥住宅事件のなかには勝訴に到らなかった事例が数件あるが、その要因を考察した。
 6章は、欠陥住宅に関連する法律は概ね整備されたと考えるが、現在も多くの欠陥住宅が生じていることから、欠陥住宅の発生メカニズムを考察した。

 本書が以下の人々のお役に立てば幸いである。
@これから住宅を建築する人、あるいは購入する人は、住宅のチェックポイントとして活用していただきたい。
A現在の住まいが欠陥住宅ではないかと懸念している人は、その判断資料として活用していただきたい。
B既に欠陥住宅にお住まいの人は、解決方法の検討資料として活用していただきたい。
C住宅の建築に携わる発注者、設計監理者、工事請負者、検査機関の人は、欠陥住宅紛争を未然に防ぐために活用していただきたい。
D消費者保護に携わる人は、欠陥住宅の相談活動に活用していただきたい。
E弁護士は欠陥住宅被害者の弁護活動に活用していただきたい。
F建築指導行政あるいは建築関係法令の整備に携わる公務員は、欠陥住宅の実情を理解する資料として活用していただきたい。

 本書が欠陥住宅の防止と欠陥住宅紛争の解決につながる一石になれば幸いである。

平成24年10月 平野憲司