欠陥住宅事件 ここが危ない! 事例と教訓


あとがき


 本書は、裁判の流れと建築士の役割、建築関係法令の整備動向及び建築瑕疵損害賠償請求事件の動向を記したうえで、欠陥住宅事件の50事例と勝訴に到らなかった事件を紹介し、終章で欠陥住宅の発生メカニズムを考察した。
 本書を振り返ってみると、欠陥住宅に関連する建築関係法令は概ね整備されたと考えられるが、現在も多くの欠陥住宅が生じており、以下の課題も見逃せない。
1. 建築基準法は、山留め工事の技術的基準、斜面地擁壁地盤の地耐力の確認、木造2階建ての構造計算、床の遮音性能、高層建築物のビル風に対する風速・風向計の設置等に関する法令整備が望まれる。
2. 住宅品質確保法は、構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分について10年間の瑕疵担保責任を義務付けたが、他の部位(地中埋設配管等)の瑕疵についても、瑕疵担保責任を義務付けることが望まれる。
3. 住宅瑕疵担保履行法は、新築住宅に対する保証金または保険への加入を義務付けたが、住宅リフォームについても適用を広げることが望まれる。
4. 新築住宅を建築あるいは購入した欠陥住宅被害者が提訴する場合、住宅ローン等の返済があり、訴訟費用の負担が大きい。訴訟費用が住宅瑕疵担保履行法の保証金あるいは保険に含まれることが望まれる。
5. 建築士、工事請負者、指定確認検査機関は、欠陥住宅の防止対策を組織的に共有するとともに、実務能力と職業倫理を高めて、欠陥住宅の防止に努めることが一層望まれる。

 欠陥住宅は、人間が生み出す人災である。欠陥住宅がない成熟した社会を目指す地道な努力が必要である。

 本書の発行にあたり、拙稿に目を留め出版までお世話いただいた学芸出版社の村田譲氏に心からお礼を申しあげる。そして、私の事務所で10年間欠陥住宅事件に携わってきた一級建築士平野太郎(長男)の尽力に対しても謝意を表したい。

平成24年10月 著 者