木へんを読む


おわりに

 木偏の漢字で木の名前を表わす字は通常のパソコンやワープロで打ち出すことができるものだけで120字ほどあります。本書ではこの字をほぼ全て拾い上げたつもりです。今では木の名前を漢字で表わす場合、「松」や「桜」のようなわずかな字だけが常用漢字になっていて、「檜」「榎」「朴」「樫」のような比較的よく使われているはずの字でも読めなくなる事態が起こりつつあります。ましてや「梍」「椣」「榧」といった漢字は読めないのが当然のように思われています。といって、本書は漢字の使用を勧めるために書いたものではありません。むしろ木の名前を漢字で表わすときに発生する問題点について触れたつもりです。
  執筆しているうちに、同名異字、同字異名も少なくなく、木の名前を表わす漢字は時代によっても不動のものではないことが分かりました。いまでは木の名前はカタカナで書くことが多くなっていますが、これもそれなりの理由があることで、木の名前を正しく伝えるために漢字で書くことにこだわることはないと思います。
  本書では時代をさかのぼって使われた木の名前や表記を、当時の辞書、関わりのある伝承や物語、和歌や随筆に求め、これを書き留めました。このことで古代の人が木に寄せる想いや関心を知ることができ、また日本人がその時代に適した表記法を使うことで記録を伝えてきたことが理解できると思います。

 この本を上梓するにあたって、お世話になった滑w芸出版社の村田譲氏、中木保代氏に厚く御礼申し上げます。また、イラストは宇野亜起子さんが描いてくださいました。あわせて御礼申し上げます。

著 者
2005年5月