木へんを読む


はじめに

 よく鮨屋さんで湯呑みなどに魚偏(へん)の漢字で、魚の名前をたくさん並べて書いていることがあります。どれくらい読めるでしょうか。では、木偏の漢字が並んでいるとしたら、どうでしょうか。
  いまでは木の名前はカタカナで書くことが多くなっていますが、漢字で書くことも少なくありません。この場合、「松」や「桜」のように比較的やさしい漢字で表わす場合にはそれほど問題ではありませんが、ちょっと読めない字があるのではないでしょうか。また「と樫はどちらもカシと読むが、同じ木か違う木か」とか、「橡はトチノキとクヌギのどちらが正しいか」となると、答えるのは簡単ではありません。そこで本書では、木の名前を表わす木偏の漢字を集め解説しました。疑問は本書を読めば解決するでしょう。さらに木の名前を漢字で表わすことの功罪も分かるでしょう。
  なお、古書を調べてみると、木の名前を表わす漢字は非常に多く、いまではまったく使われていない字もあります。そこで、最近でも使われている漢字、すなわち通常のパソコンやワープロで打ち出すことができるものを選びました。それぞれの漢字の読み、対応する樹木の時代による変化、さらに樹木や木材の概要などを示しました。また、文章による記述を補うために、それぞれの木の枝葉、花、実などのイラストを加えました。

 本書では木の名前を表わす場合、例えば《桜=さくら》、〈杉〉、〈かへで(かえで)〉、カツラのように括弧の種類と文字の種類(漢字、ひらかな、カタカナ)を変えて標記する方法をとっています。《桜=さくら》は見出し語とその一般的な読み方、〈杉〉はその他の樹木の初出の漢字表記を示します。〈かへで(かえで)〉は、歴史的仮名遣いでは「かへで」と表記し、現代仮名遣いでは「かえで」と読むことを示します。カツラは現在の和名(樹木名)です。