町家再生の創意と工夫


あとがき

 本書が発行されると同時期に、京町家ネットが企画、実施する「全国町家再生交流会」が開催されるが、執筆と闘っているこの時点では、そのプレイベント「楽町楽家」が京のまちで展開されている。内容はミニコンサート、展示会、お茶会などだが、舞台は町家である。多くの京町家を巻き込んだ初めての大きなイベントは、徐々に盛り上がりを見せており、葵祭と祇園祭のあわいを埋める一大ページェントに発展するのではと夢想させる勢いである。
  しかし真に瞠目すべきは、それが市民だけで実施されていることである。舞台である町家を提供していただいているのは、京町家ネットの活動に共鳴して集まってきた方々で、16軒のうち、作事組が改修させていただいた町家の施主も半分近くおられる。企画、運営の中核メンバーの一人も作事組の施主で、京町家友の会の事務局で活躍している方である。半ばボランティアで演奏や作品を提供してくれる方々、準備やお手伝いの裏方で活躍する方々、来場される人々などの広範な市民の力で、イベントが繰り広げられている。いかに町家を中心に据えた企画が時宜を得ているといえども、これほどの人々と力が結集されるものだろうか。
  今回上梓するこの本も、市民がまとめ上げたものである。編集方針や紙幅の都合で取り上げられなかった改修町家の施主を含めた施主の方々、工事に協力していただいた地域の方々、作事組を応援していただいている京町家ネットの会員や市民の方々、工事に携わった職人の方々、そして作事組の同士たちである。その広範な市民の協力のプロセスと成果、すなわち創意と工夫がこの本である。
  主に編集の任に当たったのは、本書の編集委員で、作事組の理事に就任して半年足らずであるが、この編集で作事組の手がけた町家を飛び回ることで、その6年の活動を諒解し、今後の活躍が期待される末川協氏、施主とのやりとりや会員への連絡などの、コーディネーター役を務めた事務局の松尾優子氏である。それと、内容に至らない点があればすべての責任を問われるべき梶山である。また前回に引き続き、野村彰氏にはイラストを描いていただいた。タイトな時間のなかで無理な要求に応えていただき、文字と図版で埋め尽くされた紙面にコーヒーブレイクのような息抜き空間を与えていただいた。
  編集の労をおかけしたのは前著『町家再生の技と知恵』に続いて学芸出版社の知念靖広氏である。前著は足かけ3年かかったが、その6分の1の期間でそれ以上の内容とボリュームを目指すという、無謀な企てを受け入れ、ねばり強くまとめていただいた。2005年6月11、12日に開催する全国町家再生交流会に合わせて出版するという期日や、世に問える内容にまとまるかということに不安を覚えたとき、知念氏の持ち前の鷹揚さによって、何とかなると気を取り直すことができた。
  この作事組の今を有り体にまとめたこの本が踏み台になって、広範な作り手によるさらなる創意と工夫が生まれることを期待する。

   2005年5月
編集委員を代表して 梶山秀一郎