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建物のリサイクル

躯体再利用・新旧併置によるリファイン建築



書  評


『HIROBA』 99.11

 著者が提唱する「リファイン建築」という言葉は、単なる建物のリサイクルとは異なる建物に新しい価値と意味を付加する本書の中心概念である。今やスクラップ・アンド・ビルドの考え方は払拭くされつつあるが、建築のリサイクルは地球資源や環境の保護などの面から、また都市の文化を高める上からもおおいに推進されていくことだろう。
 本書は、おおむね筆者のてがけたリファイン建築の記録からなっている。一例をあげよう。大分県緒方町の庁舎のリニューアルコンペがあった。全部で約2,200uの規模だが(既存部分は約半分)、著者の事務所は既存から約7m離れた場所に新しい庁舎を増築し、間のスペースに屋根をかけることで3層吹き抜けのアトリウムを設ける提案を行い、当選した。この提案のミソはコストをかけずアトリウムをもつ特徴のある庁舎が実現できたことだ。また構造的にアトリウムの屋根と増築部分を既存と切り離しているために、将来的には既存部分だけを建て替えられるという。
 著者は他にも同様の手法でホテルや庁舎、福祉施設の増築、リニューアルを行っている。少し離して増築することによってできる吹き抜けスペースで建物に新しい意味、価値を付加できるのである。また、外観は完全に保存し、内部のみを一新する手法もあわせて紹介している。著者の手がけた6件のリファイン建築は計画の概要の他に、発注者のインタビューや工事監理のポイント、耐震診断まで掲載されており、単なる計画論に終わらない内容になっている。またこの本は、環境問題や経済性のことだけを目的としていない。オルセー美術館やカステル・ベッキオ、ショーの製塩工場等の、過去を残しながら新しい建物を作った事例も紹介しながら、古い建物をリファインすることで都市の歴史の重層性を構築したいのだと述べている。
(松野 淳)



『ASHITA』 1999.10

 日本には文化財的なものを除いて、古い建物は少ない。近代建築が見直されてきたのがごく最近であることもあるが、建て替えに関して個人住宅から大規模建築に至るまで、スクラップ・アンド・ビルドが主流であったことが大きな原因である。
 著者が語る建物のリサイクル―リファイン建築とは、単純な増改築ではなく、基礎的な躯体を再利用してコストダウンを図ると同時に、そこに新しいデザインやコンセプトを組み込むことによって、建物を生き返らせることである。これによって、膨大な建築廃棄物の発生を抑制することもできる。
 著者は、新築なら八億円かかる庁舎建築が、リファイン建築なら四億で済む、という。実際に、大分県の二つの町の庁舎ではリファイン建築による庁舎改築が完成しているほか、著者の手がけた建築のいくつかは、本書にも掲載されている。今後の建築のあり方を変える可能性を持っている。


『新建築』 99.10

 建築物に限らず、さまざまな地球資源再利用への動きは、今日の世界的な傾向となりつつある。ヨーロッパに比べてその問題への対応が遅れている日本でも、建築物をリサイクルするという概念が至るところで浸透し、検討されている。今までの建築物のリサイクルというと、ただ古い部分を改修したり、増築したりして使い続けるというものでしかなかったが、筆者は建築物再生の手法として、古くなった建物に新しい機能や用途を挿入し、デザインという部分でも新旧の調和を計ることを試みている。リファイン建築と名付けられたこれらの建築が、今後の建築界でどのような展開を見せてくれるかが注目される。

『室内』 99.9

 著者の青木茂さんは、九州を拠点に活動する建築家である。そして「リファイン建築」の提唱者である。「リファイン建築」とは何か。青木さんは「使用価値が低減した建築物の使用可能な部分、価値ある部分をできるだけ残し、新しい機能や要素を付加することで、より洗練された新しい命を建築物に吹込む手法」と定義している。いわゆる増改築やリフォームとは違うからと、「リファイン建築」と名づけたそうだ。
 わが国では、先頃話題になった磯崎新さんの処女作「大分県医師会館」の取壊しの例にもれず、古くなったり本来の目的を失った建物は、まず取壊される運命にある。けれども景気が低迷するこの時代に、スクラップ・アンド・ビルドは効率が悪いばかりでなく、先人がつくった建築物に対する敬意や、建築自体がもっているエネルギーをも無にしてしまう。それは歴史的にも文化的にも損である。
 ただし「リファイン建築」は、並の方法では実現できない。本書の中で、青木さんは今までに実際に手がけた例から、その手法を披露している。説得力のある手法である。



発刊によせて
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はじめに
著者略歴
あとがき



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